107 愉快な小人
洞窟って暗いし、足元がデコボコだし、頭に出っ張りがあって危険だよな?
そりゃ冒険者だ。大抵は『ライト』持ちなんで、そう困らないかもしれない。
だけど大勢が繰り返し通る道なら、これはないわーって思うよな。
そう。ここに地竜の魔石を使った杖があるじゃろ?
『地面操作』やら『採掘』やらが諸々、欲張りについたやつ。
それを3人ほどの高魔力のダンジョンマスターに持たせるとだな。
アブラカタブラのちちんぷい。
屈んで歩かなきゃいけなかったり、アスレチック登坂しなくちゃいけなかったりする道なき道が真っ直ぐな通路にリノベーションされたりするわけだ。
だって地龍の杖に浮かれたヨウルが、道の整備をやり始めるんだもん。
「えっ。この杖、すごい。魔力消費軽っ!」
とか、横で驚かれると気になるじゃん?
それに水晶とかなら多少削っても、腐るものじゃないから倉庫用のプライベートダンジョンに仕舞い込めるし。『鉱物鑑定』で、削ったら不味い所も分かるしで。
と、いうことで。
ヨウルが床の水平を出し、エンフィが出っ張った壁を砕き、オレがアスターク教官プラス10センチほどの高さで天井を削ったのがこちらメイン通路になります。
「馬鹿だろ君ら。便利だけどさあ」
テルテル教官は正直者だ。
「メイン通路だけなので!」
「足元が危ういのに戦闘するのは危険ですよね」
「歩くにも困難なダンジョンって地雷っす!ダンジョンマスター的に!」
「うん。凄いよ、殆んど歩く速度で道の整備をするとか、熟練のブェルデ族でも中々いないし。
どう報告しよ。無給でやっていい工事じゃないだろ、コレ」
教官はため息をつく。
「ナノハナはわたしのテリトリーなんで?」
ダンジョンマスター的には、面倒みたいよな?
「地竜の魔石を貰ったんで、オレらはリューに貢献ってなことで!」
「ヨウルに同じく!」
お前ら代金払ってくれたじゃん。ヨウルは杖も作ってくれたし。
魔石の適正価格はヘンリエッタ女史が教えてくれたけど、そう気軽に左右できる額じゃなくて頭抱えたわ。
大公殿の金銭感覚、可笑しくなあい?
知ってたら受け取らなかった!
「リュー。あのさ、これ。どんなに金があっても買えないやつだからな?」
「一握りの冒険者の持ち物だぞ!
これだけ消費が軽いなら、ひとつのスキルにつき、3、下手したら4の星が付いている。極上品だ!」
『精製』しただけでこれとか、竜は規格外ですね。
スキルの残り香を留めた魔石でこれなら、生きていたときはどれだけの高スキル編成だったんだろ。
うわ。これを狩りの獲物にするのか、カザンの人らは。南大陸って怖いとこだな。
魔石のメモリもガラガラだから、重いスキルでもあと幾つも付けられちゃう感じがあるとか、もうね…。
密度の高い石はスキルストーンに使えないって聞くけど、納得。こんなんインプラントしたら、入れたところがパァン!ってなりそう。
それこそ赤の女王の石だったら、これより多くのスキルがついてるだろうけど、あれは例外。
「そうだよねー。新しい道具は使い倒したいよなあ。
俺はスクショ撮っていくんで、そのまま進んでくれていいよ。
一応ナノハナには報告するから、寸志が出たら儲けものと思って」
床担当のヨウルの負担が一番大きかったので、時おり配置を変えながら進むことしばし。
レイスはマメに、ちょっかい掛けてくるけれど、他の魔物は数えるほどだ。
「このダンジョン、迷ったら詰むのでは?」
洞窟は万華鏡のようで綺麗だが、キラキラとした代わり映えのしない光景は長くいると病みそうだ。
「そうだねえ。でも5層まではギリギリ通信が繋がるからね。
『マップ』持ち以外は、ワールドウォークさまさまだ。
エレベーターが繋がれば、更に上に5階層が繋がるようになるし、若手には格段と便利になるね」
横の通路からはみ出してきたレイスをバッサリ切り飛ばすテルテル教官。
何気ないけど、恐ろしいような剣の冴えだ。
死んだときに爆発芸を披露するレイスらが、地面に落ちてからパンと弾ける。
「エンフィ、あれ、出来るか?」
切れ味が良すぎて、死んでいるのに数瞬気付けないアレだ。
時々マンガで出てくるようなオサレな剣術。
生で見るとテンション上がるわー。
「出来るようになったら嬉しいな!」
「エンフィくんは抜刀術がメインだから、そのうち出来るようになるよー。
リュアルテくんはもうちょい練習が必要、というか体重を増やしてからだねえ。
高位階のエルブルトのお人ってみんな細く見えても、その実重い人が多いんだよ。
骨が宝珠状の生体金属化するからさ。
エンフィくんもリュアルテくんも、魔力の強さの割に軽すぎて、問題よ?」
「教官。背が伸びるうちは、骨の変化はないですよ?」
「うん。そう聴いている。『骨格強化』が出ないうちは変化しないってさ。
でも痩せぎすだと、出にくいそうだよ『骨格強化』。
そういうことで、これから順番に脇芽の野良ダンジョン潰しをするから、その間に、おやつしててね」
あー。それなり移動したから、脇芽がチラホラと出てくるあたりか。
ワールドウォークで確認すると、現在は3Fの位置にいる。
んん?
まだ2時間も歩いてないのに早くね?
「テルテル教官!地図を確認しましたが、聴いていたよりも早い時間で進んでませんか?」
「魔物との戦闘が早く済んでいるから、そりゃ早いよ。
2時間で1F移動の基準ってのはそこそこ『探索』しつつ、戦闘もこなした時間込みでかな。
掃除がメインならしらみ潰しに『マップ』埋めするし、そうなると1Fの見回りに半日から潰れるよ。この規模のダンジョンでも」
真っ直ぐ行くと1日で10階層とかのペースで潜って、最奥に辿り着いたら、そこから下に掃除していく感じ?
レベル4以上なら、何週間からの仕事になるわけだ。
「了解しました!それでは一番槍行ってもいいですか!」
「オッケー。他の皆は休憩しててねー」
提出用のスクショを撮ると、エンフィと教官が次元の狭間に潜っていく。
いいことだ。
野良ダンジョン潰す度に今までは、いちいちギルドに報告しなくちゃいけなかった。
教官たちは書類仕事に追われてたけど、これから少し楽になるんじゃないかな。
オレら未成年は下手に文責を負わせられないから、この手の作業は免除されてたし。
アプリのおかげで将来の面倒くさい仕事がひとつ減った。
さて。相談だ。
「『マップ』を見ても、この辺りに休憩取れそうな小部屋はないな」
「廊下部分も狭いしさ、ここはアレだ。
…ダンジョンに小部屋造っちゃう?」
「おやつ休憩だって言ったよねえ?」
テルテル教官は仁王立ちして、【叱っていますよ】のポーズを取る。
サーセン。
「でも。このへんで休憩に座れる場所があったらよくないですか?」
「嬉しいけどね。君ら働き者の小人さんかなんかなの?
なんで少し目を放すと、こう、環境改善に走るわけ?」
アスターク教官は苦笑している。今日の引率のメインはテルテル教官なので、熊さんは基本口出ししない。
よっぽど突拍子もないことを、オレらがやらかさない限り見守りの姿勢だ。
「教官ー。そこ退いてください。ちゃっちゃかドアだけつけちゃいますっから!」
ドアは『結界』を付与してあるから、休憩中に寛げるだろう。
ダンジョンの良いところは空間の魔力が高いので、発動体に簡易な装置を付けるだけでほぼ半永久的に道具類の魔力供給をしてくれるところだ。
ちなみに外での魔力供給は、人力か魔石の吸い出しがいる。
魔力が使われるのはいいとして、なんで撹拌世界は便利な電化製品がないのかって?
『サンダー』であれだけ魔物が寄ってくるんだぞ。
発電所なんて造ったら、すぐさま魔物に集られるわ。
うん。光熱、水道費が掛からない飲食店って、わりとふざけた存在だったりする。うちのことだけど。
でも領営の工場とかはダンジョン内に造られることが多いから、そういう意味では珍しくないかもな。
うちは食肉や野菜、水産物のレトルトや乾物の加工販売とかもやってるし。
ギルド売りのカロリーバーとかも、ダンジョン系工場の生産品だったはず。
掘り出した小部屋は広さ20畳くらいの空間で、横壁には腰かけられる段差をつけてある。
敷物なりテーブルなりは、冒険者なら持ち込んでいるので用意はしない………テーブルくらいはあってもいいかな。
アイアンツリーなら森歩きの道中に仕留めたばかりほかほかのが『生体倉庫』に在庫あるし。
レシピを開いていると、強制中断。スープボウルを渡されてしまった。
コーンスープだ。温かい。
「どうぞ」
サリーがふかふかの黒い毛皮を石の上に敷いてくれたので大人しく座る。
「洞窟内は涼しいですから、温かいものが良いでしょうね」
「あー。そっかトイレ休憩。プライベートダンジョン出しとくんで、順番にどぞ」
ヨウルがにょろりとダンジョンゲートを設置する。
野良ダンジョンに基地を作る目先の楽しさに囚われて、プライベートダンジョンを使うの忘れていた件。
…いや、あれだ。ほら門番する人らの安全と快適さは重要じゃん?
「なるほど!他の冒険者用には、花摘用の小部屋も用意するとしよう!」
そうそう、休憩所があれば、これから皆で使えるし。
「後でね、後。君らはおやつが先だから」
「はい、教官!」
「はい」
「はあい」
でも確かに、腹に物が入るとホッとする。
そこそこ腹が空いていたのかも。
やはり教官の言うことは正しいな。うん。
ベーコンとコールスローのサンドイッチが、支給されたところではあるけれど。
もうちょっと食べられるかな?
「コーンスープには合わないかもしれないロシアンたい焼きに参加する人!」
たい焼きの大箱を取り出した。
これは甘いの辛いのしょっぱいのを詰め込んであるバラエティーパックだ。
なお外見は努めて皆同じ。そんな確信的愉快犯なパーティーツールである。
ちなみに食べ物を無駄にするのは許されないので、中身が全部辛子なんてものは入っていない。当然だよな?
全員揃って手を挙げてくれたのは、協調性があって大変よろしい。
オレが2周目の『精製』をこなして小部屋に帰ってきた時は、天井にシャンデリアと、目隠しをきちんと張られた多目的室的別室が作られていた。
こっちのドアは『洗浄』付きだ。分かりやすい。
ちなみに部屋の片隅に鎮座するアイアンテーブルはオレの作品。
『ヒール』の発動体を仕込んであるので、こちらもダンジョンに吸収されないようになっている。
こんなとこに置きっぱなしにして持ってかれないかって?
レイスが出るここは、レベル30からの野良ダンジョンだ。
そのくらいの冒険者なら『ヒール』らの発動体くらい買える。
なのにこんな馬鹿でかくて重い荷物を持って帰るとか苦行でしかなくない?
野良ダンジョンの休憩所に置いてあるならともかく、他所じゃ使いづらいよ、きっと。
それにヨウルの方が、ずっと手間隙掛けている。
『ライト』の発動体を仕込んだシャンデリア大小2基と、野うさぎたちが『彫刻』された一面の壁画。
ヨウルはエンフィをアシスタントにして、クリスタルの森を彫りあげていた。
…なにやってんだ、こいつ。
「ふー。間に合った!これで出発だろ?
えーと。休憩室造りました。…ご自由にお使い下さい………送信っと」
ワールドウォークに画像やらの情報を送ったヨウルは満足気だ。
「なんでウサギの群れ?」
「リューが用意したテーブルが、月のデザインで『ヒール』つきだったからだろう。
月、癒し、とくれば、そこは玉兎だ!」
オレのせいだった。そんな馬鹿な。
「えー。一匹じゃ寂しいって言い出したのはエンフィじゃん」
クエスト!
俺たち愉快なビルダーズ!? を達成しました!
報酬が出ない?
関係ないね!
鶴嘴片手にハイホーハイホー!
皆の笑顔がおいらのご馳走。
称号 靴屋の小人 が贈られます!
※ 貴方たちのものづくりを応援してくれるナニかがいるかもしれませんよ?
また、わけわからん称号が。
なんか色々混じっているし、………えっ。小人が贈られるって、比喩だよな?
「…どうしたの。なにか、また英雄症の啓示でも受けた?」
3人揃って固まったんで、教官に心配されてしまった。
思えばワールドクエストの発布は立て続けだった。現地の人もピリピリしている。
メイドさんの不安げな顔に気がついて、ナイナイと手を振った。
「いいえ。なんか楽しげな称号を頂いただけです!」
「へえ、俺たちなら称号なんて免許取るか、釣書でも拵える時でもないと調べないけど。
英雄症の人らは、やっぱり特別な耳を持っているね。毎回アナウンスされるのは、称号の発生条件が調べられて良さそうだなあ。
ちなみにどんな称号だったか聴いてもいい?」
顔を見合わせる。別に教えても構わないよな?
うん、うんと頷き合う。
せーの。
「「「靴屋の小人です」」」
「ブホッ!」
なんかイケメンがしちゃいけない顔をしたけどテルテル教官。
「マジで?!職聖になるような一流でも持ってない人は持ってないよソレ!」
あー。
「多分ですけど、報酬の出ないボランティアをすると出るんじゃないかなー…と」
な、とヨウルに促されたので同意しておく。
「それとボランティアで作ったものが、公共性が高いといいのかもしれません」
フレーバー的に。
「ああ、道とか、休憩室とかそうだもんね」
「あと、集団行動も肝なのやもしれません。1人では取れない仕様なのではと!」
テルテル教官が納得したところで、最後にエンフィが付け加えた。
俺たち愉快なビルダーズだもんなー。
確かに小人とかなら、わらわら群れている印象だ。白雪姫とかあのあたり。
あれはドワーフだったっけ?
うろ覚えだ。
「有名な称号なんですか?」
「職人だったら、スキルは『器用な指先』。
称号だったら【靴屋の小人】。これらは欲しいものの鉄板だよ。俺ですら知ってるぐらいだもん」
わあ、凄い説得力ゥ。
「………これさ、不確定情報として、報告していい?」
「いいっすよー」
「軽いな?!」
「え、だって知られて困ることじゃないし。皆でボランティアに励むと良いことあるかもってのはなんかいいっすよね」
そうね。
GMは人の善い行いが好きだよな。
悪い行いもそれなり以上に興味津々で、楽しんでいるフシがあるけど。
ただのゲームだと思っていた時はそんなもんかと流した鬼ヶ島事変も、垢バンで排除するんじゃなくて、別世界創るくらいに彼らを優遇しているってことだもん。
そりゃあ、ああいうのに身の回りに居られたら堪ったもんじゃないけどさ。
真っ当な善人よりも筋金入りの悪党の方が魅力あるのは、古今東西の常の話で。ほんと、なんでだろうね。
この野良ダンジョン、5Fまでは、弱っている蟻としおしおのレイスしか出てこなかった。
先行隊は、風切りイナゴを見たって言ったけどそいつはレア敵だったのかもしれない。
「この野良ダンジョン、なんか切ないな」
ダンジョンマスターとして、失敗例を見せつけられた感。
「ダンジョンマスターが管理してない野良ダンジョンなんてこんなもんよ?
植生が豊か過ぎて食い合いしたりねー。どこも理不尽で、がっかり仕様。
基本的にどの生物にも優しくないね。
こういうエサがないタイプの野良ダンジョンは魔物が共食いしあって、とんでもないボスが生まれたりするから気を付けるようにね」
教官が肩を竦める。
「あっ、もう到着ですか。お早かったですね!」
5Fベースキャンプで休んでいた作業員さんらがわらわらと寄ってくる。
「うん。これからエレベーターを設置するよ。場所は作ってくれているって聞いてあるけど?」
「はい、こっちですよお。ご苦労さんです」
床を掘って露天に削り出された階段を示される。
「そっちもね。俺らは5Fをチラ見したら帰るけど、ほどほどにね?」
「わかってますよ。無茶はしません。
あ、すいません。坊っちゃんら、直通エレベーターはこちらにお願いします」
削り出された岩の階段を下っていくと、見慣れたダンジョン床が露出していた。
階段、結構深いな。
これ全部鉱石なのか。
杖が教えてくれることには、ここらへんは黄銅鉱で、銅と鉄と硫黄とダンジョン昌石と岩石成分で出来ているらしい。
『鉱物鑑定』したところ銅の含有率はざっと見たところ20パーセントくらい?
場所によってはばらつきがあるから、どんぶり勘定だけどさ……多いのかな?
5分の1は銅ってことだもんな。
なんか黄金色でギラギラしているけど、これ、金じゃないんだなあ。
そうか、愚者の金ってこれのことかも。なんか聞いたことあるぞ。
ダンジョン昌石は……んー。微量混ぜると金属が錆びなくなるのか。便利そう。
銀食器を磨かなくて良くなるとか、なんていうミステリ殺しだ。
つい鉱石をしげしげと観察してしまう。
へー。コレはダンジョンでしか産出されない鉱石なんだ。
宇宙でしか生成しづらい物質よろしく、次元の狭間でしか生成しないんだろうか。
あ、でも0.1パーセントも含まれてないな。少ない……って、そっか、水晶の方に多く含まれているんだ。なる、だから昌石ね。
この、水晶のなかでキラキラしているのがダンジョン昌石か。
黄銅鉱と水晶の塊を取り出し、見比べて納得する。
『鉱物鑑定』便利だ。
地竜って、『鉱物鑑定』あるくらい知能があるのに、魔物なんだよなあ。
竜族と竜種は、猿と人ぐらいは違うから仕方ないけどさ、魔物の方が基本個体値が高いのが辛い。
エレベーターを設置すると、斥候のメイドさんが確認に行ってすぐ戻ってきた。
「オールグリーンです!」
「帰り道を確保したところで、さて。もう少し時間はあるかな。記念に少し採掘していく?」
もちろん。
よっしゃー、掘るぞー!
誤字報告、いいね、評価、ありがとう御座います。
暑くて頭が朦朧とします。はい、誤字のいいわけです。




