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105 滝壺の中



 43日目も引き続きナノハナ滞在中だ。


 なんかサリアータでは一等地のお屋敷が、ひとつド派手に吹っ飛んだらしいよ。

 今のサリアータは他所から応援に来た冒険者で溢れているから、捕り物関係のクエストは順調に消化されているとか。

 数が揃うって素晴らしい。


 いや、想像以上に大事になって驚いている。

 お他所の国まで出てくるのは、勘弁して欲しかった。吹けば飛ぶような田舎だぞこっちは。


 実際地面がふっ飛んだけどな!

 …笑えない。自虐ジョークはほどほどにしておこう。



 良い報告もある。

 ワールドクエストの赤の女王。

 災禍の王の堅さに苦心したので、先のイベント展望を見据え、冒険者の幾らかは家亀で練習を積んでいくことになった。

 やったぜ。

 やる気のあるプレイヤーは大歓迎だ。


 まったり勢も来てくれたら、もちろん嬉しいけど、目ぼしいものにサリアータは欠けているんでそこら辺はこちら側の要努力だ。

 同じ大陸に限っても気軽に移動するには、撹拌世界の駅の普及率は少なすぎるし、まして大陸間を移動するとか、冒険者の中でもやれるのは大公殿のような一握りだけだ。

 地方には地方の良いとこがあるとは思うけど、都会の便利さには負けるかな。


 家亀を狩るなら貸し出し用の『部分破壊』も、役に立てる。

 スキル石は付与具枠を潰さなくて便利だけど、メモリの圧迫があるからしてプレイヤーは発動体でスキルを覚えて欲しい。


 ……うん。オレは自力で『部分破壊』のスキル石を作れるようになれたらいいな。


 女王戦でしこたまこさえた発動体。

 その経験で、オレはサリーのスキルが移っていた。

 星8のスキルをふんだんに使って『エンチャント』しまくったんだ。そりゃあ移りやすいよなあ。

 星4の発動体も、そういう意味ではお値段以上だ。スキルを覚えやすいアクセサリになったはず。


 ちなみに数量限定で亀狩りの常連さんには付与具の買い取りもOKしている。

 そこでの稼ぎは、冒険者が南海で心地よく過ごせるようにまるっと投資を試みた。

 品なく荒稼ぎをやらかしたから、ここはひとつ還元したい。


 昼間の南海ビーチは比較的安全で、ロケーションは抜群だ。

 腕のたつ冒険者たちは、キャンプやバカンスを楽しんでいるとも聞く。

 それを聞いて速攻で動いた。オルレアが。


 バーベキューセットの貸し出しや、パラソル、チェア等々。

 水着やトロピカルドリンクを買えたりする、洒落た売店なんかあると気分も上がるよな?

 そして店員が可愛い人魚のお嬢さんだと文句無しで。


 そんなわけで、今の南海は夜も昼もそこそこ賑やかになってるそうだ。


 しかしだ。レジャーでも気軽に海の中に入るのは、お勧めできないのが撹拌世界。

 浜にいるのに、水に入れないとか寂しすぎる。

 だから馴染みの棟梁にオーシャンフロントのプールなんぞを造って貰うべく頼んである。

 バーベキューのやれる海浜公園付きで。


 プールで遊ぶのは冒険者に限り、しかも自己責任だが、外という景観の良さから完成を楽しみに待たれているとのこと。良かった、良かった。


 なにせダンジョンマスター的にはこういう大型設備はダンジョンに造ると簡易だけど、外に造ると大掛かりになる。

 おかげであぶく銭はキレイに消えた。これで罪悪感ともおさらばだ。


 まだ『部分破壊』の在庫分があるだろうって?ジャンプしろ?

 あーあー、聞こえない。

 家亀死すべき慈悲はない。そんな水麗人の皆さんにはすっごく誉められたから、もう良いことにして欲しい。


 南海はナノハナの用事が終わったら、どうなっているか見に行くつもり。

 本来の予定ではまだ亀狩りの最中で、食肉採取に励んでたわけだし。



 ナノハナは出稼ぎに出ている若者も多いが、まだまだ現役の老人や、元気いっぱいの子どもたち、森を管理している自警団の猛者も大勢いる。


 駅が通ったので物流が良くなった。

 すると今までは諦めるしかなかった物が直ぐに手に入るようになり。そこでもう、ひと稼ぎしたいなって層も出てくるわけで。


 ダンジョンマスターとしてはニコニコだ。

 位階を上げつつ、金も稼いで、世間さまに貢献しようとする人たちが多く居るほどダンジョンを造る甲斐がある。



「これから道を敷くのだぞ!やはり砕石が要るだろう!」


「石などダンジョンを造るまではなかろうて!岩場なら幾らでもあるだろうが!」


「利便の悪い川向かいのあちらにな!しかし、他に重要なものがあれば考慮する!」


「あのう。ナノハナの換金物が触手だよりなのはよくないかと」


「アイアンツリーは?」


「あれこそ薄利多売の最たるものでは。金銭になるだけでもありがたくて涙が出るが」


「いや金にはならんでも、衣食の満足度は上げておきたい。羊肉は良いものだった!」


「ウールと食肉の加工がこなれるまでは、まだ時間が掛かります。次なる産物は時期尚早では」


「周りの荘園がやっていない野菜か果物があれば、いいですね」


「ナノハナ周辺ではレベル50からは上げにくい。若手に野良ダンジョンに潜らせるなら、もっと位階を上げておきたいが如何」


「それこそ、サリアータのダンジョンを利用すべきだろう。

 管理ダンジョンの飽和が起きていると聞く。駅があるなら駆けつけ合力すべきだ」


「…なんと、それは羨ましい。いえ、失言でした」


「気持ちはわかる。やはり管理ダンジョンが荘にあると豊かだ」


「近所の荘園の者も位階を上げたいだろう。

 マッドスライムと三つ目羊の間に、なにかあるといいのでは」


「なるほど。農民たちがスキルを覚えると、生産性が上がって良い。

 彼らは軍人や冒険者とは違うから危険に配慮しなくてはいかんが、スキル石が買える稼ぎと併用できると尚良いな」



 うーん。中庭を突っ切ってショートカットしようと思ったら、お役人さんらの相談、根回しの現場に遭遇してしまった。

 オレのところまで上がってくる案件は、方針が固まってからなので新鮮だ。

 邪魔してもアレなので、踵を返す。


 どういう意見が優先されるか、ちらりと裏側を覗くと楽しみになってくるな。

 中庭を通るのはやめにして、廊下をてけてけ歩く。


 グッドマン邸は未だしも、砦内は規格化された分厚い石で造られていていて、重厚感があった。

 つまり冷えるということで。


 羊はそれで要望が出たんだな。

 オレに提案が持ち込まれるまでは、あんな会議を繰り返したんだろう。


「ご機嫌ですね?」

 サリーの問いに肯定する。


「種を撒くのは楽しいだろう?

 どんな花実をつけるのかと、想像するのと同じくらいに」

 従来のトマトを愛していても、新種は別腹で気になるよな。

 誰かの努力の結晶だもん。


「なるほど。良い芽が出そうですか」


「わからない。でも、枯れることを願って苗を植える者はいないかな」

 これからナノハナがどんな風に変わっていくのか楽しみだ。



「あれ、リュー起きたん?

 今日は起きてこないかと思った」

 エントランスでヨウル一行とかち合った。


「おはよう、ヨウル。いや、もう昼過ぎだからこんにちは、かな。

 寝坊した」

 寝る時間がいつもより少し遅かったんで、うにゃうにゃうにゃ。そーいうこともある。


「丁度良かった。午後から水晶洞窟の探検に行くけど、参加するだろ。

 今日からエンフィも合流してっぞ」


「エンフィが?」

 あいつ、西の方に遠征してたけど帰ってきたのか。


「うん。門のとこで待ち合わせ。午前中はお前んとこのマッドスライムにちょっかいかけたら、お互い汚れたんで風呂に突っ込まれたとこ。

 別に『洗浄』でも構わないのにな?」

 風呂上がりに手入れされたのか、ヨウルがピカピカしている。

 むしろそっちがメインなのでは。

 思わずヘンリエッタ女史を見ると、にっこり微笑まれる。あ、はい。こんにちは。余計なことは言わないです。


「そっちのマッドスライムと勝手が違うだろう?」

 ヨウルのとこはコンクリート素材だ。


「こっちは火気厳禁で『雷光』も禁止だもんな。

 粘性なのは鬱陶しいけど、素材は興味ある。マッドスライム系なら魔力に触れてなくても劣化しないだろ?

 生体金属と違って」

 ううん。魔力に触れなくても平気だけど太陽光とか、樹脂が苦手なものには大抵弱いぞ?


「代用樹脂だからな。

 強化タイプではあるけど、不燃性はない。っと、そうだ、あれ、燃えるといい香りがするぞ。林檎の木を焼いたみたいで。

 うちでは燻製とか、食品の香り付けにならないか試したいってことにもなった。

 だから毒性のチェックは終わっている。そうだよな、サリー」


「はい。どこに出しても文句がなく安全にお使いいただけるかと。

 素材がマッドスライムということに目を瞑れば」


「あー。スライムって言葉に拒否反応起こす層もいるからなー。

 よっぽど大事なモンでも溶かされたのかね」

 グッドマン邸は森の異変に直ぐ駆けつけられるよう、大門の側に建てられている。

 喋りながらだと、本当に近い。


 そこで見慣れた黒髪と金髪が大小、モグモグとおやつをしていた。なんて通常運転だ。


「リュー、久し振りだな!」

 リアルでは毎日会ってるけどなー。


「そうだな、エンフィは久しぶりになるか。

 ピタパン?」


「家亀肉のケバブサンドだ!旨いぞ!」

 聞こえたのか、門の近くで出張屋台をしているうちの子が明るく手を振ってくれる。


「ああ、ケバブ。海で食べたのは旨かった。買っていくか」


「オレもー」

 屋台では大きなケバブがグルグル回って炙られている。それに目を奪われるのか、通りすがりの冒険者たちが全て屋台に吸い込まれていく。なんたる肉の吸引力。

 焼き立ても渡して貰えるが、量を買うなら在庫も直ぐに出してくれる配慮が嬉しい。


「明日から家亀のご飯サンドをやりますよー。

 かりかりの焼おにぎり風のご飯で、甘辛ソースの家亀パテを挟んじゃいます。

 そっちも美味しいので、よろしくでーす」


「えっ、ケバブは今日で最後?

 なら10個買ってもいい?

 サンドも5つ」


「あたしも、両方5つずつね。

 ツナサンド、好きだったんだけどもうやらないの?」


「駅前広場の売店なら、買えるかもです。

 この出張所は今日のノベルのイチオシ!で割安提供してるので、ここ以外だと1割くらい高くなっちゃうかもですけど」


「んんん!ケバブ好きだから、これ食べ終わっちゃったら行ってみる!」


「教えてくれてアリガトね」


「どういたしまして!今日も1日ご安全に!」

 オレらはいい子なんで割り込みはしない。キチンと並んでお買い物だ。

 戦利品はそれぞれ『体内倉庫』に仕舞い込んで。いや、ひとつは誘惑に負けて食べ歩きだ。

 肉とピタパンと玉ねぎの酢漬け。

 ピクルス類ってそのままだとオレの舌には酸っぱすぎるけど、肉と食べると抜群だ。


「このケバブは女王ケバブですよ!」

 ということらしい。それなんて勝利の味な。旨いよ、うん。


「怪我なく、元気にいってらっしゃい!」


「ありがとう。行ってくる」





 大陸行路を開く前段階、砦周りの樹木の伐採が始まったので物音に惹かれたアイアンツリーはそちらのほうに集まっている。

 おかげで他の場所では魔物の圧が減ったので、森の小路の整備が始まっていた。

 大きな段差には石が置かれ、邪魔な枝葉が打ち払われている。

 あくまで簡便な範囲だが、格段に歩きやすくなっていた。

 これは気を使わせてしまったか。


「それにしてもジャスミン…は、わからないけど、エンフィ日焼けしたなあ」

 エンフィは肌をこんがり焼いて蜂蜜色だ。


「この休みは黄色い砂漠に行ってきたぞ!サリアータの緑化の力に飲まれて、年々砂漠は減少していっているそうだ!」

 油断すれば緑化するって、地球環境の反対かあ。


「いいことだよな?」


「いいことだな!

 サリアータが崩落の封じ込めに成功してしまえば、戻ってしまうかもしれないが。

 しかし砂漠で食べる、瑞々しい葡萄や瓜は格別だった!

 あればかりはこちらで食べても、そう美味くはないだろうな」


「それで、猟はどうだった?」

 エンフィはにっこり笑う。お日さまの笑顔で答えやしない。

 なんか嫌なことでも言われたのかな?

 嘘はつきたくないからって、笑って誤魔化すのは良くないぞ。

 サリー経由でジャスミンに聞き取りでもするか。気が弛んだ後にでも。


「わたしたちは浜辺で亀と抗争してきた」


「こらこら、子どもたち、亀を苛めるのはよくないぞ」


「苛められてるのは、家を補食されてる乙姫さまのほうなんだよなあ、どう見ても。

 逃げれば逃げるだけ追ってくるし。

 乙姫さまと亀が敵対ルートにあるって世知辛くね?」


「残酷童話になってしまう!」


「童話なんて残酷なものだろう。特に改定前のは」

 婆さまが持っていた昔の童話集とかなんて読み聞かせしたら、妹どもがギャン泣きしたわ。ああ、遠き日の思い出よ。

 でも読めって言ったのは、確かあいつらだったよな?


「皆さま、ここからはウィングブーツでどうぞ」

 聞こえていた水が落ちる音が段々大きくなる。

 そんな中、ロッククライミングには良さそうな断崖に出た。

 申し訳程度に張られたロープは、辛うじて通路であることを主張している。

 これは確かにウィングブーツ案件だ。


「オレはー?」


「ヨウルくんは俺とタンデム。他の野郎どもは自力で崖下りな」

 ヨウルはテルテル教官に小脇に抱えられる。

 崖からは目的の滝が見えた。

 ヨウルが落ちた滝は、かの華厳の滝ほどは高くなかった。

 まあ、それなりゾッとする高さだ。

 しかも水量としてはこちらが多い。

 HPって、ありがたいな。これから落ちて無傷とか、本当にもう。


「野良ダンジョンは滝の裏側とかではなくて、この滝壺の中なのか」

 これは無理だ。気付けない。

 絶景と滝音に、特有の気配が飲まれてしまう。


 現地に到着するとメイドさんらは慣れきった体でベースキャンプを作り始めた。


「妙な色気のある滝だとは思ってましたけど、ダンジョンが生まれてるのは気付けませんでしたー。

 危なかったですね」

 メイドさんらがうんうんと頷いている。この滝は強化合宿時のキャンプ地のひとつだったそうだ。


 ワニが生息する川で水浴びなんてしないだろ?

 アイアンツリーが跋扈する森の中でキャンプとか、頭が沸いているとしか思えないかもしれない。だけどそれも訓練だ。

 階層の深い野良ダンジョンに潜るには、何週間もの泊まりになる。危険地域での夜営知識がないことには野良ダンジョンを掃除するにもままならない。冒険者は辛いよなあ。


「深い階層エレベーター建造に携わるにはまだ実力が足りないが、かわりにキャンプ用個人ダンジョンをいっぱい造って配布したい」


「マスター、それをしたらオルレアお嬢さまに叱られますよ?」


「そこはオークションに出物があるだけでもありがたいのでー」

 野望を垂れ流したらメイドさんらに嗜められる。


「やはり稼げるダンジョンを造って、購入資金を蓄えられるようにするのが良いだろう!」


「んー。残念だな。水晶はキレイだけど、そう高価なもんじゃないだろう?

 工業として使われるなら無駄にはならんだろうけど」


「うちだとシリカゲルの材料ですね!

 人工水晶の原料にもなりますので、重要ですよ!」

 ヨウルが見つけた野良の水晶洞窟ダンジョンはレベル3相当。

 20階層には届かないが、そこそこ大きめのものだった。

 オレらが休眠している間に、1通りの下調べがあったそうだ。

 ロケット祭りが終わったばかりで、里帰りした人が多くまだ残っていたからやれたことで、それは幸いだった。


「こちらの星砕きは鉱物を採掘してから、というか、順番待ちの野良ダンジョンが多すぎるのでしばらくは側芽を摘む作業になりそうです。

 とはいっても駅が通る前のナノハナだと側芽を摘むこともままならなかったので。大進歩ですよね!」


「テントを中と外に建てましたー!

 必要な方は着替えどうぞです!」

 野良ダンジョンは滝壺の中。

 そういうことで本来は一旦着替える手間が入る。

 面倒だけど滝壺に潜るとなると、無性にわくわくするな。別世界感、半端ない。





 いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。


 相変わらず滑稽な誤字が多いです。

 ヒェっと息が止まります。報告者さんいつもお手数掛けてます。感謝。


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