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104 リアルダンジョン建造部隊



 北風がぴゅうりら吹いている。


 今日はこの冬一番の寒波がやってきているそうだ。

 車窓越しに見える道行く人は、誰もがコートを着込んで寒さに首を竦めている。雨が降れば、きっと雪になっていただろう。


 そんな中、車はかの秩父三社のどこにも寄り道しなかった。

 140号線からその看板を流し見ただけ。殺生な。


 位階が上がったせいか、寒風吹きすさぶ外で散歩してもそれほど辛くは感じない。

 しかしワゴン車内は、ちょっと寄り道して行こうぜと言い出せない雰囲気だ。


 冒険者免許交付直前で、空気がヒリヒリしている今だ。

 観光はやめときましょうとの無言の圧力があったりする。残念無念。


 余分な寄り道NGの代わりに道中、美味しいと評判のお茶屋さんや、蕎麦屋さんに寄ってくれたのは温情だろう。


 オレは子ども舌なんで正直、お薄よりは抹茶ミルクの方が断然美味しく飲めてしまうが、寒椿や雪の結晶を象った上生菓子に敬意を払って今回ばかりはお抹茶に挑んできた。

 和菓子ってつくづく美しいよな。

 小さい頃はなんでかあんこが苦手だったけど、今は好きだ。


 店内は、南天の掛け軸がはっと目を引く。

 なんでだろ。知らないけど有名な作家さんのだったりするのかな。そう思って見ていると店員さんが教えてくれた。

 昔の家は採光が少なくて暗いんで、掛けられる絵は斜めから差し込んでくる少ない光を反射させる技法をよく用いたのだそう。


「雲母を使っているので、赤い南天に降る雪がキラキラして見えるでしょう?」

 店内に入って、少し暗いなと感じたのはそれでか。

 自分ではチェーン店くらいしか入らないんでこーゆーとこは初めてだ。



 蕎麦屋もそう。

 油ものと肉が大好きな高校生なんで、蕎麦なんて家でしか食べたことなかった。

 そこでは温かいのと冷たいのの両方を食べたけど、蕎麦だけならザルの方がオレは好きだ。

 個人的に蕎麦は、香りを冷たいのど越しで味わうのが肝だと思う。

 しかし汁にとぷんと浸かった天ぷらは、良いものだ。

 鰹の出汁に衣が染みると、熱々サクサクからしっとりふくよかに変わるあたりが最高だ。

 ましてエビ天は天ぷらの王さま。

 これ絶対に美味いヤツ。

 ビジュアルの強さだけでも圧倒的だ。

 エビって凄いよな。どうやって食べても美味しいんだから。

 蕎麦があっさり淡白なぶん、油の浮いた汁とは相性がいい。七味を落とすと尚、良しだ。

 寒い季節は腹の中が温まると幸せになる。

 我ながら節操ないが、両方旨い。


 というのも毎朝の体重チェックで今日はウェイトが減ってたせいか、食事に飽きさせないよう、いつもより余分に配慮されている気がする。

 真夏に自転車漕いだら2、3キロくらい軽く減るからそんなに心配しなくてもいいのにな。いや、ありがたいし、食べるけど。


 そんなこんなで、えっちらおっちらやってきました武蔵国。

 白玉ダンジョン秩父支部は最寄り駅から歩いていけるが、バス路線もある観光ルートに建てられていた。

 今日のオレらは工事作業員なので、揃いの帽子にジャケットを着込んでいる。


 支部に入ると飲食出来る待合室が大きめに取られていて、受付の対角には売店用の空の陳列棚が設置されていた。

 トイレは男女に別れていて、ゆったり目に設えている。

 銭湯と更衣室、貸し出しのジャージがあるのは、観光客を素通りさせてやらないぜ!という意気込みだろうか。


 そう、この施設。実は銭湯が入っていた。

 魔石ボイラーが優秀なんで、24時間湯沸かししても低燃費だ。

 その良さを啓蒙すべく、白玉ダンジョンは銭湯を備えているところも多くなる予定である。


 寒いところにお住まいの方は朗報だ。

 冒険者が増えるこの先は、暖房費が安くなるかもよ?

 セントラルヒーティングを新調の予定のかたはご一考をだ。


 いや、流石に土地が高いところには、銭湯はなかったりする。

 親方日本でも無い袖は振れない。

 しかしながらお国の施設。災害時の避難所も兼ねている関係で、インフラまわりはガッチリしている。店で食べられるレトルト類も、救援物資の備蓄の入れ替えを兼ねてもいるそうなんで、いざ、なにかあったら駆け込むべし。


 そんな白玉ダンジョン秩父支部では、白玉ダンジョンを2基設えた。

 最高4基まで増やせる設計だが、ダンジョン数が手元不如意なので、将来は増やせたらいいなとしか。

 この辺はゲームでも慣れた作業なので、チャッチャカ設置完了だ。


 所長さんに引き継ぎをするのは、役職つきのお偉いさんなのでその段になると作業員姿のオレらは車に退避する。

 その入れ替りで、バスの中に待機していたダンジョン職員研修生が建物内に入っていくのが見えた。

 聞いたところ彼らはこれから白玉狩りをしつつ、実地で職業訓練する予定だとか。

 どうも張り切る気持ちがあふれ過ぎて、工事終了予定時刻より大分早めに到着してしまったようだ。


 ……。外に出る前に急遽、防塵メガネやマスクを全員に配布されたのは、そーいう。


 作業員の仕事を邪魔しないよう勧告されても、無邪気にバスの中から記念に1枚をやらかす人はいそうだもんな。

 オレらが大勢で行動するのは護衛よりもカモフラージュ要員な気がする。

 作業着姿の大勢と、自衛官のぴしりとした格好をした人がいたら、どっちに目が行くかって話だ。

 まさかこのパンクな紫髪に作業着姿のにーちゃんとかが、バリバリの自衛官だとは思うまい。地毛だけど。


 今回から小さな雫石を使ったから、白玉の沸き具合の動作確認も必要だ。

 そのチェック要員にわざわざ人数揃えたのだから、ただの賑やかしってわけじゃないが。


 うーん。お偉いさんは、気を回すことが多くて大変だな。

 これ以上はなんかミスが出ても、人間だから仕方ないような気がする。


 オレとしたら、あんまり我が儘したり、人の悪口は避けるようにしないといけないな。

 リュアルテくんだけならまだしも、リアルでこう大事、大事にされ続けると思い上がって人格歪みそうだ。

 聖人君子なら良かったんだけど、オレも大概人は好き嫌いで判断するからなあ。


 『倫理』スキル、リアルでも欲しいな。行動チェッカー至急求む。






 埼玉を脱出した後は、一路東京千代田まで。

 急遽予定を捩じ込まれた、本日ダンジョン製作の2件目だ。

 少しだけ体重が減ったのは、こいつのせい。


 ここのダンジョンは白玉ならぬ、マッドスライムを狩る用途に使われる。

 つまりオレがヨウルに押し付けた、コンクリート資材調達用のマッドスライムダンジョンと同じやつだ。

 これが因果は廻るということか。


 場所が場所なんでこのダンジョンはしばらく警察の皆さんの訓練施設にもなるそうだ。

 白玉ダンジョンを卒業した卵たちは、こちらに誘導されて元気なヒヨコになる仕組みである。

 ダンジョンを山ほど建てていきたい政府ちゃんの意向で、建材の確保は緊喫だ。

 なのでマッドスライムダンジョンは、優先される施設のひとつだってよ。


 日本人は皆スライムがお好きね?

 初心者の通る道感あるよな。


 マッドスライムは安全第一。白玉より魔力負荷が重いので0.8グレード以上の雫石で造った。

 このダンジョン作業員は、泥汚れが酷いので、『洗浄』によるクリーニングサービスが提供される。

 防塵マスク、眼鏡も必須だ。


 ヒヨコ冒険者各位には申し訳ないが、重くて安いコンクリート材を集めるのは、若鳥になるための通過儀礼と思って頑張って欲しい。

 ここで骨惜しみしないと判断されると、冒険者としてプラスの評価がつく寸法だ。

 まともな教師が生徒をよく見ているように、職員さんも冒険者を見守っているのでどうぞよろしく。

 昔ヤンチャしていた冒険者は、点数をつけてくる視線にドキドキしちゃうだろうが『異界撹拌』で学んできたとおり、真面目な紳士淑女でいようとすればなんの問題もないので安心めされ。


 肝心の魔石は普通に買い取られるから、けして損にはならないはずだ。

 『洗浄』の発動体も、希望者には貸し与えられることになる。スキルの自力習得を目指す人はお勧めだ。



「お疲れさまです」


「サリーも」

 マッドスライムダンジョンの試運転で、チーム全員、なにかのコントみたいに泥まみれだ。


 マッドスライム、『サンダー』は効くけど、道具の確認って大事じゃん?

 そんなわけでマッドスライム用のビリビリ棒を、リアルでは初お目見えで振るってきた。


 ビリビリ棒は魔石で魔力充電してあるタイプと、自分の魔力で動かせる2タイプを用意してある。

 冒険者免許の中級者試験に通ったから、ヨウルが武具を作れるようになった。だからそちらの作品だ。魔石の供出元はいつものオレだけど。

 マッドスライムにはスタンガンももちろん効く。しかしビリビリ棒を使えば『雷光』を覚えられるかもしれない。冒険者の中にはそれを魅力に捉える者もいるとの判断だ。


 …コンクリート用のマッドスライムさ、ビリビリ棒があれば楽勝だけどスコップで搬出孔に泥を落とす作業が面倒臭い。

 体力の錬成にはいいかもだけど、ちょっとはお得なご褒美があってもいいよな?


 なまじビリビリ棒で、ちょんと当てると、どぷんと弾ける大惨事だからなあ。


「これは『体内倉庫』持ちがモテそうですね」

 容赦ない泥汚れに、さしものサリーもうんざりしている。

 それな。体に付着するのも一端収納しちゃえば『洗浄』も楽だ。


「必須スキルはあっちで習熟を重ねてるから、それなりの人数は出そうじゃないか?」


「ゲームなら、理想の自分になりたい人も多いですよ。

 私や流士さんたちのように、相性のいいランダム生成スタートでいいやって人も多いですけど」


「VRなら尚更か」

 オッドアイやらの特別に憧れる気持ちはわからんでもない。


 篠宮家では、今年の春に去るものがいた。

 白木蓮が咲く夜。

 虹の橋の向こうに旅立った愛猫が、白い毛皮にオッドアイの美猫だった。

 彼女は家族への躾にも厳しい方だったから、不興を買って何度引っ掻き傷をこさえたことかわからない。

 正真正銘の雑種のくせに、すごく綺麗で気位が高くて。

 うん。金銀妖瞳は神秘的で、ある種の魅力があるのは確かだ。


 ただ白猫にオッドアイが多いのは、色素異常で。その分弱視で体も弱く。

 そのことを彼女を通して知っているから、オレはちょっと選べないけど。


 ……普通に金色の目をしてたら、もっと辛いことが少なくて、長生きしてくれたんじゃないかなあ。


「流士さん?」


「ん。『洗浄』。耳を隠せる帽子もあった方がいいな。中まで入ったら大変だ」


「ありがとう御座います。もういっそ、防水ライダースーツにフルフェイスのヘルメットを貸し出しでいい気がしてきました」


「いいな。センスのある人に発注を頼んでくれるといいんだけど。

 バイクに興味はないけどさ、ライダースーツは着てみたい」

 バイクよりは車のほうが好き。

 単車じゃ収穫物は乗せられん。


 そういや中途半端で放置している車の免許講習は、そのうちどこかの駐屯地で取らせて貰えるような補填があると聞いた。だから問題集の見返しは続けている。

 講習費払ったのに免許を取れなかったとか、許されないよな?

 うちのマイカー保険も切り替えたのに、それはないわー。


 え。車の方を贔屓しているのに、なんでライダースーツが好きだって?

 ニチアサヒーローは男の子の通る道じゃん?


「あー。流士くんがまた佐里江さんに忖度してる」

「いいなー。いいなー」


「気立てのいい美人と、オレと同じむさい男なら待遇格差は当然でしょう?」

 一般冒険者が狩りをしても困ることがないか確認中だから、サリーもオレも『体内倉庫』は封印している。

 女の人は、少しの間でも不快な泥汚れはない方がいいだろ?


「気立ての、いい…?」

「しっ。佐里江さんに目をつけられるぞ。訓練で念入りに可愛がられたいのか」

「美人、いやそうだけど。ハーレムキングの佐里江さんだぞ」

「この中で一番、位階が高くて頑丈だよな」

「流士くん。強い女の子が好きなのか」

 失礼なおっさんどもだな。


「強くて優しい年上のお姉さんが嫌いな男子高校生がいるとでも?」

 しかも性格も可愛いとくる。

 そんな人に気のある素振りされたらコロリだろう。


「私も礼儀正しくて、気配りしてくれる殿方の前では淑女でありたいと思いますよ。

 女に優しくされたいのなら、まず紳士になるべきでは?」

 好きな子に親切じゃない男っているの?

 少なくともオレの周りじゃいなかった。


 …まあ、照れて話せなくなるダチならいたけど。その癖、突然の豪雨に困っている彼女に傘を押し付けて自分は濡れて帰るなんてベタなやりとりを平然と繰り返しているよな、あいつ。

 見ているこっちが恥ずかしいわ。

 彼女も満更でもないんだから、さっさと付き合っちゃえばいいのに。アオハルか。


「えー。俺、嫁さん以外の女に優しくしすぎると怒られるから。妹に」


「腕っぷしでも、モテ度でも負ける男前に必要あるか…?」


「いや将を射ようと欲すれば。

 佐里江さんと仲良くなると、周りの女性陣ともお近づきなれるのでは」


「それだ!」

 どれだ。


「躾のなっていない駄犬を、友達に紹介するのは嫌です」

 おっさんらも酷いが、サリーも酷い。

 ホント仲良いいな。


 んー?

 やっぱり女の子に囲まれているサリーには危機感を抱くけど、より気兼ねないっぽい間柄のおっさんらには反応しない。

 なんでだろ?

 




 コメント、いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。


 お話の最初の方読みにくいコメントがちらちらとありました。

 心あたりがありすぎて、イタタですね…!

 なので時間があった時にでも、こっそり直すかも知れません。

 最初の頃の自分の文章を読み直すという恐怖心に打ち勝てたらの話ですが。おそろしや。



 それと、104.5話に月光さんでピンクドロップが入りますが、例によって読まなくていいやつです。

 話としては進みません。

 文字なら何でも美味しい大人の皆さまはどうぞ。



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