毒花2
「この離宮で一番美しい庭園ですわよ」
ご覧なさいなと上機嫌に目を綻ばせる。
イザベルが向かった先はイザベル妃自慢のダリア園だ。
真紅のダリアが辺り一面に咲き誇っている。
そうですねとエレノアが同意するとイザベルはますます上機嫌に言葉を紡ぐ。
「妃にはアマリスがふさわしいという輩もいるでしょう? アマリスは確かに華やかで王妃にふさわしく思いますわ」
イザベルは一度息をつくと扇を持っていないもう片方の手でダリアに触れた。
「……でもね、ダリアは【栄華】、アマリスは【奇跡】。
奇跡なんて危ういものよりも国母となる私に最もふさわしい花ですわ」
イザベルの目はほっとりと細められ冷たい光を放つ。
その瞳にエレノアはぞっと寒気を覚えた。
歌うように語るイザベルは自分の世界に浸っている。
エレノアが一歩引いたのを気にも止めずに続ける。
「残念ながら、このダリアでも完璧に私にふさわしいとは言えませんわ。
だって……花は醜くなって誰にも見向きもされなくなってしまうでしょう?」
イザベルは口元を隠していた扇をたたみ顎に添えた。
「私は枯れるつもりは無くてよ。
この国の枯れない花になるまでは……ね」
グシャリとダリアを潰した。
潰れた花びらは嘆くようににはらはらと散り、土に埋もれた。
イザベルは満足げにダリアが散ったのを見届けるとあまりのことに息を飲むエレノアに目を向ける。
「取引いたしましょう。【迷い子】」
「……え?」
取引? 【迷い子】?
眉をひそめるエレノアにイザベルは歪んだ口元を一層歪め蠱惑的な笑みを浮かべた。
「あの第二を……」
「エレノア様」
イザベルの声に重ねるように鈴の音のような可憐な声に呼ばれた。
はっとしてエレノアとイザベルが声の方を振り向く
「リリー様!」
銀色のドレスに身を包んだ金髪の少女、リリアーヌだった。
リリーは腰を折り、可憐に最上級のお辞儀をした。
「お取込み中申し訳ございません。
イザベル妃様。ご無礼をお許しください」
「全くですわ。名は?」
「リリアーヌ・プロクターでございます」
「ーーっプロクター!?」
イザベル妃は動揺した口元を隠すようにさっと扇で隠す。
イザベル妃が驚くのも無理はなかった。
プロクター家はアマリス王国の二大勢力の一つ。代々神殿の巫女を生む家系として政界には関わらないが強い影響力を持っていた。
神殿の規律が厳しくないアマリス王国では巫女は乙女祭が終わった後は条件付きではあるが比較的自由な行動が許されていた。
だから、貴婦人が集まるこのお茶会にも出席ができたのだろう。
イザベル妃が顔を知らないのはリリーが社交界に全くと言っていいほど顔を出さないからだろう。
「王妃様、エレノアを少しお借りしてもよろしいでしょうか?」
「……よろしくてよ。私はお茶会に戻りますわ」
政界には関わらないくせに影響力は強い厄介なプロクター家を今敵に回すのは得じゃないと考えたのだろう。
イザベルはすぐに引き下がり庭園を後にした。




