動き出す歯車
「辺境伯爵の事件……あれも復活派が関わっているのではなくて?」
絶世の美女と言われるローレンは送られてきた書類を手ににっこりと微笑んだ。
「胸糞悪い事件だ。」
けっとオリヴァーは吐き捨てた。
レイモンド伯爵はセドブルに負わされた怪我は重症であったものの一命は取り留めたが彼の心の怪我は治らず精神病院に入れられた。
無理もない。
大切な息子を生き返らすために腐心してた7年間が息子を殺したヤツに利用していただけに終わったんだ。
だが、罪は罪。
伯爵は反逆罪、誘拐罪にあたるが伯爵の精神状態から保留となり、伯爵位の剥奪だけに終わる。
国境となり今後体制が整えられる伯爵領の後任は信頼できる適任者が現れるまで王家の預かりとなった。
今回の事件の神隠しの被害者、セレネ王国の民は伯爵家の使用人として操られていた。
幸い彼らに操られている間の記憶はなく後遺症もない。
アマリス王国の議会は今回の事件は隠すことに一時は決定されたが、ルークが反対の意を唱え、
ルークが責任を取るかたちでセレネ王国に直接謝罪と交渉し、
事件を表沙汰にしない代わりに今後、
セレネ王国と交流を深めるためブロム山をアマリス王国負担で整備すること
無条件にセレネ王国が他国に攻められた時軍を貸すこと、
二度とこのような悲劇が起こらないために迷いの森には衛兵を置くことで収まった。
今回の事件は表ではひとまず収まるところに収まった。
しかし、この事件はまだ解決していなかった。
「伯爵の執事、クルドと研究のデータが消えた聞きましたわ
どうなのかしら? 元……」
「奴は関係ねぇよ。だがな、今後は波乱分子になるかもしれねぇ
動向を探っておいてくれ」
ローレンの言葉を遮るようにオリヴァーは凄んで言い放つ。
オールバックにサングラスでおまけに騎士団長を務める男が凄むとかなり迫力があるものだが、ローレンは分かったわと軽く返事をするだけでそれに物怖じした様子はない。
さすが【戦闘の女神】と言われただけあるな。
ふぅとオリヴァーは空を仰いだ。
「お前は息子のことだけを心配しとけよ。
やつらが動き出した」
オリヴァーの言葉にローレンはあからさまに顔をしかめた。
「知っていてよ。
劣等感と憎悪に晒さないような道を選択したつもりなのに……」
ローレンが自嘲気味な呟きを遮るように
コンコンと控えめなノックの音が響いた。
オリヴァーはどうぞと応えて椅子から立ち上がり、部屋の中に入ってきた人物に慇懃に頭を下げる。
「神殿からよくぞお越しくださいました。
リリアーヌ様」
「オリヴァー様、貴方は知っていらっしゃたの?」
部屋に入ってきた人物ーリリアーヌことリリーは
慇懃に頭を下げるオリヴァーに挨拶もなしに普段の彼女から想像もつかないほど険しい表情でオリヴァーの机に、あるページを開いた本を突きつけた。
それはオリヴァーがよく知るどころか暗記すらしているものだった。
「あぁ。」
オリヴァーはリリーの突然の剣幕に一瞬瞠目したが、鷹揚に頷いた。
『そして1000年後、
聖なる力を宿す銀と魔の力を宿す赤を同時に持つ【迷い子】は1000年の時を超え現る。
【迷い子】の心が闇に支配されし時
魔王は迷い子を依代に再びこの地に蘇らん』
『迷い子』は(まいご)ではなく(まよいこ)です。




