踏みだせた想い
ルークは脱力したように体重をエレノアにかけて余すことなく硬く抱きしめた。
「……ノア。無事で良かった」
耳元で囁かれる魂を打つような甘さを帯びたホッとした声にエレノアの体温は急上昇し、腰は砕けそうになる。
互いの心臓の音が良く聞こえるほど近い距離に恥ずかしさのあまりエレノアは身をよじって脱出を試みるが
エレノアの銀色の頭に添えられる手が微かに震えているのに気付き抵抗をやめた。
そしてそっとルークの震える広い背中に手を回した。
「ごめんね……心配かけて」
ルークは一層強くエレノアを抱きしめた。
生きているのを実感するように…
長いようにも短いようにも感じるほどの時間が経ち二人は自然と互いの身を離した。
二人の抱擁が済んだのを見計らったようにシャラがエレノアに怒気を孕んで近寄ってきた。
「シャラーー」
エレノアが呼ぶと同時に
パシーン!
平手打ちの音が盛大に響いた。
エレノアの透き通るように白い頬は痛々しく赤く染まった。
「エレノア……のばか!」
シャラは涙を溜めて叫ぶ。
「なんで何時も自分を投げ出すのよ!
赤い瞳だから仕方ないっていってどうして自分を軽く扱うの!?」
シャラの悲痛な叫びにエレノアは言葉を失った。
「確かに……エレノアが自虐的になるのは赤い瞳を厭っていた私にも原因がある。
でもね、何でエレノアはエレノアを心配する人のことを考えないの!?
……し、死んじゃうかと……思ったじゃないの……やめてよ……また目の前で死ぬなんて」
最後の言葉は消え入りそうに小さかった。
顔を両手で覆って涙ぐむシャラにエレノアは何も言えなかった。
シャラはナイフに突き刺されそうなエレノアを見て自身の一座が魔物に全滅された時のことを思い出したのが痛いほど分かったから。
「今回は俺もシャラの意見に賛成だ。
俺は主人の大切な人以上にエレノア自身のことを尊敬している
二度と簡単に命を投げ出さないでくれ」
涙ぐむシャラの頭をポンポンと叩きながらカイルはエレノアに向き直って懇願した。
私……大切にされていたのか
兄様や父様、母様がいなくなった時誰も私のことなど必要としないと思ってた。
漆黒の少年以外……
でも、こうして心配してくれる。
ルークもシャラもカイルも
不謹慎かもしれないが嬉しかった。
必要としてくれる仲間がいることに。
「……ありがとう」
綻んだ笑顔と共に自然と口から出た。
心配してくれて
仲間として大切にしてくれて
おかげでやっとエレノアは一歩踏み出す勇気が出たのだ。
以前から目を逸らしていた今回の事件で気づいた事実と気持ちに
次で伯爵編終わります!




