神隠し3
伯爵が血走った目でナイフを手にセドブルに向かって襲いかかる。
誰もがセドブルにナイフが突き刺さる瞬間を目にし、
セドブルが血だらけで倒れる未来を想像した。
が、後ドサッという音ともに血を流して倒れたのはセドブルではなく伯爵だった。
伯爵が持っていたはずの赤黒い血に塗られたナイフを手にセドブルは面白そうに顔を歪めて見下ろす。
「ーーっ……私の……むすこを……返せ……」
「残念です。
ですが、良かったですね。
息子さんの元へすぐに行けますよ」
息が絶え絶えの状態に関わらず伯爵はセドブルの脚を掴み鋭く睨みつける。
「ーーっく!」
そんな伯爵を嘲るようにセドブルは掴んでいる手を乱暴に蹴り飛ばした。
そしてゆるりと伯爵はナイフを振り上げた。
ギラリと濁った光を目にした瞬間、
呆然として金縛りのように動かなかったエレノアの体は無意識に動いた。
エレノアを庇うように前にでていたルーク、カイル、シャラを通り抜け、
ナイフを振り上げるセドブルと手を流し動けずにいる伯爵の間に割って入った。
「ノア!!」
懐かしさを感じる呼び方で必死に叫ぶルークの声はどこか遠い。
ナイフが振り下ろされる瞬間は一瞬なのにエレノアには長く感じた。
ゆっくりと振り下ろされる白銀のナイフの剣先は妖しく濁った光を放っているのをどこか達成感のようなものを感じながら眺めていた。
ずっと……振り下ろされるナイフに何もできなかった。
剣先が目の前に迫る
『ノア、ずっとそばにいるよ。
何があっても俺が守るから』
そう言ってくれたのは夢に出る漆黒の男の子
ごめんね。
心の中で夢の中の彼に謝罪してそっと瞳を閉じた。
しかし、次に受けるはずの衝撃が来なかった。
……なに?
そっと目を開けるとセドブルが痙攣を起こす空虚な手を呆然と眺めていた。
どういうこと……?
目の前に起こったことに思考が付いて行かない。
呆然とするエレノアを引力のように引き付けられエレノアの顔は広い胸板に押し付けられた。
ドドドドと耳元でうるさいほどなるルークの心臓の音に心地よさを感じる。
「ーーっくくく。
楽しませてくれますね、殿下。
雷の魔法を剣に宿して音速で投げるとは」
状況を理解したセドブルは愉快そうに顔を歪める。
ルークはエレノアの頭を息ができなくなるほど一層強く押し付けて、
温度のない冷たい声で鋭く言い放った。
「てめぇ、いい加減にしろよ!」
「次貴方に逢えるのを楽しみにしてますよ
そうそう、いいことをお教えいたしましょう。
伝説の裏に潜む真実を知った時迷い子は必ず我らの手に落ちるでしょう」
「……迷い子?」
「その意味は時が満ちれば自ずと分かりますよ。
では、その時まで」
含み笑いを浮かべ、セドブルは踵を返した。
「待て!!」
声を上げるルークにリリアーヌを攫ったいつぞやの短髪の男が立ち塞がった。
「この先には行かせない。」
「どけ!」
「見逃してやると言ってるんだ。」
男は冷酷に言い放つ。
確かに相手の男の実力が不明瞭である以上深追いは良くない。
そのことを理解しているゆえにルークはギリギリと歯切りして動けなかった。
「乙女の魔力を持つ王子。
魔王復活の時は近い」
男はそう言い残しセドブルと共に闇に消えた。




