操られた騎士 4
「ーーっか……イル」
エレノアの首を絞めているのは淀んだ瞳をしたカイルだった。
そんな……伯爵は意識を失っているのに何で?!
通常、魔法は魔法を使うものの意識がなくなると魔法の効力は消えるものである。
ーーまさか、操っていたのは伯爵ではない!?
エレノアはチカチカする意識の中で突きつけられた現実に衝撃を受けた。
「赤い瞳……仇……コロス」
呪詛のように呟くカイルの姿が痛々しかった。
「ごめ……ね……たす……られ……くて」
『何があっても守るから』
ふとルークのセリフが頭をよぎる。
酸素が入らず息苦しい。
酸素不足で意識も朦朧として、
足腰の力が抜け、一層首が締まる。
「……るーく」
エレノアは無意識に呟いた。
刹那、手の力が緩んだ。
解放されたエレノアはどさりと崩れ落ちる。
圧迫していた力がなくなり、やっと取り込めた酸素を体が急いで吸った。
「……ルーク殿下。」
カイルは膝から崩れ落ちうわ言のように呟いていた。
「おれは……殿下の大切なものを……守らなくてはいけない……止めろ、出て行ってくれ!」
「カー。」
エレノアは目の前で頭を抱え出したカイルを呼ぼうとしてやめた。
戦っているのだ。
恐らく、カイルを支配している何かと。
これはカイルが乗り越えるしかないのだ。
エレノアに今できるのは彼が勝つことを祈るしかない。
「ーーおれに命を下せるのは殿下だけだ!!」
カイルは自身の左手を矢で刺した。
エレノアは息を飲んだ。
カイルは、はぁはぁと荒い息をひときしりあげると
矢を手から抜いた。
血がぼたぼた垂れるのを一瞬見つめ、
体だけ起こしたエレノアの前で跪く。
「エレノア副隊長。ご迷惑おかけいたしました。
そしてーーありがとうございました。」
カイルは顔をあげいつもの笑顔を浮かべる。
彼の深緑の瞳は日光を浴びる新緑のように煌めいていた。
ほっと安堵していると
パチパチと空気を破るような拍手が鳴る。
ハッとするとそこにはセドブルが涙を浮かべ
笑みを2人に向け、手を差し伸べた。
「安心致しました。
さぁ、脱出しましょう、騎士様方。」
エレノアがその手を取ろうとした刹那、
芳香な林檎の香りが鼻を差した。
セドブルの顔をはっと見ると
彼は穏やかに口元を緩め笑っていた。
しかし、セドブルの瞳の奥深くは燻る赤い冷酷な光を宿していたのだ。
まさか……
自分が気づくのが遅かったことを悟るとともに
目の前の光景が闇に堕ちていった。
間に合わなかった
エレノアが諦めかけた時だった。
「そいつから離れろ! エレノア!」
エレノアが最も落ち着かせないが
最も安堵させる聞きなれた声と同時に
エレノアとセドブルの間に紫の閃光が走ったのは。




