初老の目撃 2
「私は見てしまいました。
8回目の神隠しを」
初老は徐ろに口を開いた。
今エレノアたちは【迷いの森】に近い初老の家にいた。
丸太作りの一部屋しかない小ぶりな建物で家というよりも小屋に近い。
窓から覗くのは太陽に照らされ青々と輝く静寂な森。
あの森が【迷いの森】として敬遠されているなど知らなければ森林浴と称して入ってしまいそうだ。
「私はセドブル。
しがない木こりでございます。
この森で仕事をしてはや30年
この森のことは誰よりも知っていると自負しております。」
正直、何が言いたいのかわからない
だが、今まで少しも得られなかった貴重な情報になるかもしれないのだ。
エレノアは情報の是非を判断するため慎重に耳を傾けた。
「森に異変が出たのは7年も前のことです。
以前小鳥がさえずり暖かな森で人びとから愛された森でしたが、
7年前のある日を境にパタリと不気味なほど森は閑散としました。
そして、森の奥に足を踏み入れていくと魔法がかかっているように森の入り口へと戻ってしまうのです。
いつしか人は【迷いの森】と呼び恐れるようになり、
何人かいた木こり仲間や狩人たちは皆この地を離れました。」
7年前というフレーズにルークがピクリと反応した。
エレノアはどうしたのだろうと燻影にルークを一瞥した後、疑問を口にした。
「なぜあなたはこの森を去らなかったの?」
「妻と共に過ごした森です。
そう簡単に離れる訳にはいけません。
それに……亡霊などいるわけありませんから。」
「亡霊?」
「……いえ、今のは気にしないでください。」
聞き返したがセドブルは一瞬しまったという表情を浮かべエレノアたちから視線を外した。
何か隠しているのかしら?
エレノアは追求したかったが
ルークがこれ以上聞くなと目配せしてきた。
何か知ってるの?
エレノアはそう尋ねるようにして目で返すとルークはこくりと頷き、
「それで?」とセドブルに先を促した。
セドブルはほっとしたような表情を浮かべ話を続けた。
「今から1ヶ月くらい前のことでしょうか。
私は真夜中に目を覚ましました。
ふと窓の外を見ると一人の中年の女がふらふらと森に入っていくではないですか。
私は止めるために急いで外に出て女の後を追いました。
しかし、やはりいつものように森の入り口に戻ってしまいました。」
セドブルは一息ついた。
顔色は真っ青で小刻みに震えていた。
「次の日、8人目の犠牲者が出たと騒ぎになりました。
被害者は鍛冶屋の女将……40代の中年女性だと。」
「領主には言ったのか?」
「いえ、言っておりません」
「なぜ?」
ルークの追求にセドブルは目を伏せた。
そしてどこか切なげな震えた声で躊躇いがちに告げた。
「……変わってしまわれたから。」
「変わった?」
「……ええ。
アマリス王国のこと領民のことを一番に考えられた素晴らしい辺境伯爵だった。」
「今は?」
セドブルは曖昧に微笑むだけだった。




