新たな願いは
幼い子ども達は本当に可愛い。
どこかの動物生態学者の考えではベビーシェマだっけ?脳に訴える種を越える現象だったかな。
でも大人の獣になっても未来や逢未への愛おしさは変わらない。
苦しいことからも悲しいことからも守ってあげたい。
幸せでいてくれるためならなんだってできる。
この気持ちは、なんていう現象なのかな。
春の出産ラッシュ一番手の山犬の若夫婦の子守りを引き受けて畑近くの野原で遊ばせている私と逢未。
じゃれつく子ども達の相手は思ったより重労働で一休み中。
目の届かない所に行ったら危ないので目だけは離さずに。
「ユウ、このごろぼんやりしてるね。」
やんちゃな男の子をしっぽで遊ばせながら腕の上に顔をふせたままこちらを向いた逢未。
どきっとする。
ジークと話したあの日から私はどうしたらいいかわからない。
何も言えない私の言葉を待たずに逢未がたちあがる。しっぽにかじりついていた子が転げ落ちる。
「ユウ!」
振り向くと満面の笑顔。
去年より髪が伸びて浅黒い顔の彼が白い歯をみせて手をふっている。
「マルク!」
「俺、旅することにしたんだ。」
人懐っこい笑顔でマルクは言った。
「俺、家に帰って母ちゃんにここでのこと話したんだ。いや、ちゃんと言ったらだめなことは省いてだぞ。村でやってたことを教えたり手伝ったりしたこと、みんなの役に立てて凄く嬉しかったし楽しかったから母ちゃんにも教えてやりたくてさ。
産まれたときからあの村から出たことなくて、ユウにお礼言うために旅をしてさ、知らなかったものもいっぱい見たり食べたり、この国でも驚くことばっかりで。なにもかもが全部楽しかった!
俺の世界は母ちゃんと村だけだったけど、今はもっと広がった。
まだまだ、世界は広いだろ。広い世界を見てみたい。いろんなこと知りたいって思うんだよ。
そんでもって俺の出来ることややりたいことがもっとたくさんの人の役に立ったらって。これは、母ちゃんの受け売りな。
産まれたからには他人様の役に立つ人になりなさいっていうのが母ちゃんの口癖で。それが一番幸せになれることなんだって。
新しいこと村に持ち帰ったら、役にたつこともあるかもしれないだろ?
だからさ、やっぱり旅しかないだろ?そんでもってユウも一緒にいかないか?」




