第1章-5
あれから、二年の月日が流れた。
自警団での訓練。
地域の人々への支援。
おれたちは、
それを“日常”と呼べるようになるまで、
生きていた。
アスナは、あの日から――
弱音を、一度も吐いていない。
大人たちと、
ときどき難しい話をしている。
自警団の仕事――
街への買い出し、食事の準備、
日々舞い込んでくる依頼への対応。
いつの間にか、
すごく頼りにされていた。
…でも…時々。
夜中、布団の中で泣いている。
おれは、
それに気づいていないふりをしている。
自警団の大人たちは、
よくアスナのことを話している。
「可愛くなった」って。
おいおい。
アスナは、もともとこの辺りじゃ
抜群に可愛かったんだぜ?
……最近、
もっと可愛くなったのは――
まあ、認める。
そしておれは――
ーーー
「いてー!!」
一瞬目の前に広がった光。そして次の瞬間にはアスナの拳がカイの額にヒットした。
アスナ
「はい、今日も私の勝ち!」
「荷物持ちは、カイね!」
カイ
「ずりーよ!」
「負けそうになったら、すぐ魔法使うの!」
アスナ
「ふふん」
「どう? 最近は炎をコントロールして」
「今日みたいに、視界を遮れるのよ」
カイ
「だからそれがずりーってんだ!」
「おれが魔法使えないからって!」
「だいたい訓練なのに、本気すぎだっつーの!」
アスナ
「あら?」
「じゃあ、本気じゃなかったの?」
「それなら、まだ一度も私に勝てないのも仕方ないわね」
カイ
「ぐ……」
「ま、まあでもさ!」
「魔法なんか使えなくてもさ!」
「おれは、おれの剣で強くなるからいいんだ!」
アスナ
「あんたね...」
「確かにあんたは強くなったけど」
「剣っていっても……」
「魔法が使えないと、危なっかしくて戦えないわよ?」
カイ
「そ、そんなことねーよ!」
アスナ
「まあ、いざってときは」
「私が守ってあげるから」
「まずは、日々精進しなさいよね」
カイ
「くそー!」
「この小言ばばあ!」
アスナ
「誰がばばよ!」
「勝負とは関係ないでしょ!」
「ほら、さっさと荷物持っていこ」
カイ
「あ、おい!」
「待てよ!」
「アスナー!」
---
いつものように、
アスナに小言を言われながら、カイが夕飯の準備をしていた時だった。
拠点の空気を切り裂くように、
男の声が響き渡る。
ジン――
団長と呼ばれている、その男の声だ。
ジン
「ボルジック山賊団が出たぞ!!」
「山間の村が、襲われちまってる!」
カイ・アスナ
「!?」
その名を聞いた瞬間、胸の奥がにぶく熱を帯びた。
団員
「ボルジック山賊団……だと!?」
「数年前に団員の多くを失って、大人しくなってた――」
「あのボルジック山賊団か?」
―あの日の夜。
孤児院を襲った山賊団。
それが、
ボルジック山賊団だった。
後から聞いた話だが、
リーダーのボルジック――
ドレッドヘアーが特徴の大男が率いる、
この一帯では最大勢力の山賊団らしい。
孤児院襲撃の際、
仲間の多くを失ったと聞いている。
……たぶん、
相当な数を、シキが倒したんだろう。
それ以来、
大きな被害は出していない――
そう聞いていた。
……その連中が。
村を、襲っている……?
団員
「おい……大丈夫なのかよ……」
「あの……シキ、だっけか?」
「あの子も、あんなに強かったのに……」
「そいつらに、やられちまったんだろ……?」
団員
「おい、バカ!」
「……あっ」
空気が、止まる。
団員たちの視線が、
一斉に――
カイとアスナに集まった。
二人は、
「あの夜」を生き残った存在だ。
自警団の中でも、
それには、誰も触れてこなかった。
……触れてはいけないこととして。
視線を感じると同時に、
おれは気づく。
横のアスナが、
ほんのわずかに、震えている。
アスナは自分でも気づかないうちに、拳を強く握りしめていた。
ジン
「――とにかく!」
張りのある声が、
場を切り裂く。
ジン
「今から、その村の救助に向かう!」
団員
「ちょ、ちょっと団長!」
「マジかよ!」
「そんな連中に、俺たちが行って何ができる!」
「殺されちまうぞ!」
ざわざわ、と空気が揺れる。
カイ
「……団長」
おれは、前に出た。
カイ
「おれが行く」
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