第3章-11
カイ
(身体が……動かない……)
(くそ……)
ゲルグ、ゆっくりと歩み寄る。
ゲルグ
「軽い、軽いな小僧」
見下ろす。
ゲルグ
「貴様には、足りないんだよ」
一歩ずつ近づいてくるゲルグ。
ゲルグ
「弱者が持つべき・・・“死の恐怖”がな」
沈黙。
ゲルグ
「弱者は死の恐怖を抱え・・・」
「強者の機嫌を損ねないようにしながら・・・」
一瞬だけゲルグは目線が落ちる。
ゲルグ
「生きることしかできんのだ・・・」
カイの肩が、小さく揺れる。
カイ
「死の恐怖だと・・・?」
「……知ってるよ」
ゲルグ
「……?」
カイは顔を上げる。
血に濡れたまま。
カイ
「あの日・・・」
あの燃える孤児院を思い出す。
――炎。
崩れる天井。
叫び声。
シキの背中。
カイ
「逃げるしかなかった……」
歯を食いしばる。
カイ
「怖くないわけねえだろ......」
静かに。
だが、確かに。
カイ
「でもな」
剣を握る。
震えていた手が、止まる。
カイ
「だからって――」
一歩、踏み出す。
カイ
「他人を傷つけていい理由になるのか?」
「より弱いものを虐げることが、許される理由なんてあるのかよ!」
空気が、張り詰める。
ゲルグの表情が、わずかに歪む。
―脳裏に過る。
若き日の自分。
「最強の騎士になるんだ」
「弱き者を守れる、強い男に――」
その時、ゲルグは真っ直ぐな騎士の剣を掲げて夕日に向かって目を輝かせて笑っていた。
ーーー
【ゲルグの回想】
色白で、身長は高いが華奢な青年ゲルグに、母が話しかける。
母
「ついにあなたも帝国にお使えする日が来たのね」
「7大将軍のお父さんにも負けてられないわね!」
ゲルグ
「ああ!」
「おれは、最強の騎士になるんだ!」
「弱き者を守れる、強い男に―」
【数年後、ゲルグ30歳】
ゲルグの父
「お前を側近にできる日が来るとはな!」
「7大団長とその側近が親子なんて、史上初のことだそうだ!」
「お前のこれまで多くの人々を救ってきた功績が認められたんだ!」
ゲルグ
「はい父上!」
「帝国と、周辺国の民の力になれるよう、今以上に尽力します!」
【さらに数年後、ゲルグ35歳】
血を流して倒れるゲルグの父
ゲルグ
「父上!!」
「何が・・・」
7大団長の1人、腰の曲がった老人が話した。
???
「ヒーッヒヒヒ!」
「お前の一族は使えん!」
「魔力が尽きたら戦えないものたちなどいらん!」
「爆炎を支える一族など、時代遅れの弱者じゃ!」
ゲルグ
「そんな・・・」
「父の管轄していた地域の民はどうなるんですか・・・!」
???
「そんなもん知らん!」
「さっさとこの城から出ていけ!」
「ヒーッヒヒヒ!!」
【さらに数年後】
ルニール国の帝国兵
「ゲルグ様、知ってるか?」
「7大団長の側近だったのに失脚したって・・・」
「お父上も粛清されたって・・・」
ゲルグは鬼気迫る表情で鍛錬に励んだ。
そしてルニールの村人を虐げる。
帝国兵
「ゲルグ様、また村を征服して配下に置いたらしい」
「すげえ!」
ゲルグ
(そうだ・・・弱いのは罪・・・)
(強ければ守れる、弱ければ食われる・・・)
(簡単な話じゃないか・・・)
ーーー
ゲルグ
「……ふん」
目を細める。
ゲルグ
「貴様には分かるか?」
「分からんだろうな...!」
魔力が膨れ上がる。
ゲルグ
「”志”などではどうにもならない......!」
「この世の道理が……!」
カイ
「......」
「分からねぇな……」
「知りたくもねぇ……!」
剣が、震える。
カイ
「どんな理由があれば――」
一歩、さらに踏み込む。
ゲルグに殺されたジンや、村を奪われたエリス、
そしてカイとアスナを炎の中逃がそうとするシキを回想する。
カイ
「大切なものを、他人から奪うことが許されるんだ!!!」
シキが別れ際にカイに残した言葉と、頭をゴシゴシしたシキの手の感覚が蘇る。
「カイ、お前は強いよ」
――ドクン
カイの剣が、脈打つ。
光が大きくなってカイを包む。
カイ
「ゲルグ……」
鋭い目で見据える。
カイ
「お前は強い」
白い光が、剣を覆う。
カイ
「それでも――」
刃が、カイにまとって光を帯びる。
巨大な“白銀の大刀”へと姿を変える。
カイ
「おれは、お前を許さない!!!!」
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