第1章-2
孤児院の縁側。
夕暮れの風が、静かに吹いている。
先程まで、誰かと外で話をしていた孤児院の先生が帰ってきた。
先生
「……最近ね」
「また隣の町も、山賊に襲われたそうだよ」
言葉を選ぶように、少し間を置く。
先生
「……ここも、いつか……」
その視線が、シキに向く。
先生
「シキ」
「もし、ここに何かあったら……」
シキ
「おれがいる」
即答だった。
シキ
「山賊なんか、何人来ても問題ない」
「こんな時代で、弱いものを傷つけるやつらなんて」
「いくら来ようと――おれが全員、討ってやる」
先生は、ゆっくりと首を振る。
先生
「いけないよ、シキ」
「確かに君は、強い」
「……でも、もし君に何かあったら……」
先生
「あの二人は、どうなる?」
シキ
「……」
言葉が、詰まる。
先生
「もしもの時は……」
「君も、逃げなさい」
沈黙。
シキ
「……」
その夜。
孤児院の屋根の上。
二人は並んで、空を見上げていた。
雲ひとつない夜空に、
大きな月が浮かんでいる。
シキ
「カイは?」
アスナ
「寝ちゃった」
「あんなに騒いでたのに」
くすっと、笑う。
アスナ
「……やっぱり、まだ子供ね」
シキ
「…そうだな」
少しの沈黙。
シキは、空を見上げる。
ため息がでるほど大きく、白い光が目に入ってくる。
シキ
「……いい月だな」
アスナ
「……ほんと……きれい……」
シキ
「……アスナ」
その落ち着いた声に、
アスナの胸が、きゅっと鳴る。
アスナ
「……な、なに?」
(最近……)
(シキに名前を呼ばれると……)
(すごく、ドキドキする……)
シキ
「……」
アスナ
「……?」
シキ
「フッ」
「なんでもない」
アスナ
「え?」
「ちょっと、何よそれー!」
「今のドキドキ返してよー!」
シキ
「なんだ、ドキドキって」
アスナ
「い、いや、その……」
視線を逸らし、もじもじと。
アスナ
「……なんでもない」
「……ばか」
シキ
「……」
ほんの一瞬。
ごく小さく――
シキが、笑った。
月明かりが、
その表情を、優しく照らしている。
シキ
「……アスナ」
また、落ち着いた声。
アスナ
「何よ、今度は」
シキ
「いつか」
「平和な世の中になって」
「お前と、カイが……楽しく生きてほしい」
一拍。
シキ
「……それが、おれの願いだ」
アスナ
「……何、どうしたの?」
シキ
「……」
「なんでもない」
そう言って、また笑った。
アスナ
「もう……なんなのよー!」
少し間を置いて。
アスナ
「……シキ」
シキ
「どうした?」
アスナ
「あたしと、カイと……」
「シキも、一緒だからね?」
シキ
「……」
ほんのわずか、目を伏せて。
シキ
「……ああ」
月は、何も言わず、
ただ静かに――
三人の未来を照らしていた。
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