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第1章-14

ボルジック

「――ガハッ……!!」


鈍く、濁った声。


カイ

「……」


剣を構えたまま、

カイは動かない。


確かに――

手応えは、あった。


だが、勝利の実感はない。


ボルジック

「……て、てめぇら……」

「……もう……終わりだぞ……?」


血を吐きながら、

それでも――

にやりと、口角を歪める。


ボルジック

「帝国の……やつらは……」

「……すぐ……てめぇらを……」


カイ

「……」


アスナ

「……」


ボルジック

「……へへ……」


――その笑みを残したまま。


ボルジックの身体から、

力が抜けた。


完全な沈黙。


あまりにも――

あっけない最期だった。


カイ

「……」


次の瞬間。


カイ

「……うっ……」


ふわり、と。


張り詰めていた糸が切れたように、

カイの身体が揺れる。


戦いの疲労か。

それとも――

力を使い切った反動か。


その身体が、

崩れ落ちかける。


その身体を、

正面から――

アスナが抱きとめた。


アスナ

「カイ!」

「……やったわね!」


小さく、

カイの目の前に右手を差し出す。


カイ

「……アスナ……」

「ああ!」


――パシッ。


二人の手がぶつかる。

ハイタッチ。


張りつめていた空気が、

ようやく――

ほどけた。


カイ

「……本当に、切れたな……炎……」


カイ

「最初さ……」

「“炎を切る”なんて作戦、聞いたときは……」

「……マジかよ、って思ったけど」


アスナ

「あら、そう?」

「私がその辺の読みを、外したことある?」


さらっと。

何でもないことのように、言ってのける。


カイ

「……しかしさ……」


カイ

「……ずりーよな、アスナは」


アスナ

「え?」

「ずるいって、何がよ?」


カイ

「知ってたんだろ?」

「おれが直線で斬れば、炎を“切れる”って」


カイ

「それ、ずっとおれに教えないで……」

「訓練で連勝してたもんなー!」


アスナ

「なによ、いじけてんのー?」


カイ

「……別に」


アスナ

「くすっ」


カイ

「……何だよ」


アスナ

「なんでもなーい!」


2人の間に軽口が戻る。


その二人の背後から、

ゆっくりと――

太陽が昇っていった。


ーーー

アスナ

「……カイ……」

「……終わったね」


カイ

「ああ……」

「そうだな」


カイ

「……報告、しにいかなきゃな」


薪を集めた、あの丘。

そこに建てられた――

シキの墓。


カイ

「……シキ」

「……終わったよ」


カイ

「シキに鍛えてもらった、あのおかげで勝てた」

「……ありがとうな」


アスナ

「……私も」


カイ

「え?」


アスナ

「戦術はね……」

「“シキだったら、どうするだろう”って」

「ずっと考えてたの」


カイ

「……そっか」


カイ

「シキは……」

「……死んでも……」

「おれたちの力になってくれてたんだな……」


カイ

「ッ……」


視界が、滲む。


アスナ

「……うん……」

「……うん……」


――きっと。

アスナも、同じだ。


カイ

(……シキ……)

カイの脳裏に、シキへの思いが浮かぶ。


カイ

「……アスナ」

カイは真剣な表情でアスナに話しかけた。


アスナ

「なに?」

「どうしたの?」


カイ

「……おれ……」

「旅に出ようと思うんだ」


アスナ

「……カイ!?」

「なに言って――」


カイ

「確かにシキの仇は討った。戦う理由ももうないのかもんねえ……けど」

「終わってねえんだ」


カイ

「ボルジックも言ってただろ?」

「山賊に村を襲わせて……」

「裏でこのあたりを支配してたのは、帝国だって」


カイ

「山賊じゃねえ……」

「帝国が……」

「おれたちから、全部奪ったんだ」


カイ

「おれは……」

「帝国に支配されてる人たちを、守りたい」


カイ

「……おれが、やらなきゃいけない気がするんだ」


アスナ

「……」

「……カイ……」


カイ

「多分……」

「危険な旅になる」


カイ

「自警団のみんなに、心配はかけられねえ」

「……だから、今日にも出るつもりだ」


カイ

「アスナ……」

「アスナは、ここで――」


アスナ

「……何、カッコつけてんのよ」


カイ

「……え?」


アスナ

「あんた、魔法も使えないくせに」

「無茶ばっかりじゃない」


アスナ

「……あたしが守ってあげなきゃ」

「いけないんだから」


アスナ

「……付いていってあげる」


アスナ

「言っとくけど――」

「止めても、無駄だから!」


カイ

「……アスナ……」


なぜか、

涙があふれそうになる。


カイ

「あ!」

「ってまた子供扱いしやがって、このー!」


アスナ

「今さら何言ってんのよ」

「子供でいいの」

「お姉ちゃんに、甘えてなさいよ」

一瞬だけ、アスナには2年前のカイと語り合った夜が思い出された。


カイ

「うるせえ!」

「やめろー!」


アスナ

「ふふっ」


この世界の片隅で起きた、

彼らの小さな勝利。


それはやがて、

世界を揺るがす

大きな“渦”となっていく。


――それをまだ、

二人は知らない。

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