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08ギルドでの決闘

 翌朝。

 ギルドの修練所にて。

 冒険者たちが集まっている中、僕らは対面していた。


 対面するのは――赤髪の少女アンジェラ。


「まさかね……ライカが出てくると思っていたんだけど。」


 ポツリとつぶやく。

 少なくとも昨日の時点でアンジェラの心は打ち砕かれていたはずだ。

 それなのになぜアンジェラがここにいる?


 でもまぁいいや。


 これでアンジェラを大勢の前で辱められるんだから。

 アンジェラ達には、僕は弱い魔術しか使えないと言っていた。

 自分たちよりも明らかに実力が低いと思わせていた。

 でも実際は違う。

 僕は強い。

 ”太陽の戦乙女”の誰よりも。

 それに気付かせてあげるのが今日の目的でもある。


「ディスト……本当に……

 ごめんなさい。」


 アンジェラが頭を下げてくる。

 それを見て僕は――


 非常に腹が立った。


 なんで立ち直っているんだ?

 なんで怯えていないんだ?

 なんで平然としているんだ?

 これじゃまるで昨日の出来事がなかったみたいじゃないか!

 脳内で思考が加速する。

 何かおかしい。

 彼女に起きた変化は一体何だ?


「もう少し――落ち込んでいてくれていたら、

 楽しいんだけどなぁ。」


 独り言をつぶやく。

 アンジェラが落ち込む様子を想像し、

 それを楽しみに待っていた自分がいた。

 ビルナやエリザの陰に隠れて、怯え、

 無残にライカが負けるのを見て涙を流し、

 自分を責める姿が見たかったのに。


「ディスト……。」


 アンジェラが小さく口を開く。


「アタシはあんたの――いえ、あなたの怒りを受け止めるわ。」


 はぁ?


 はぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ???


 頭が真っ白になる。

 何を言っているんだこいつは?

 殊勝なこと言いやがって!

 昨日の弱々しくて今にも砕けそうな少女はどこに行ったんだ?

 以前の跳ねっ返りの強くて生意気な小娘はどこに行ったんだ?



「調子に……乗るなよ!!!」



 激情に任せて魔術を発動させる。

 これが戦いの合図となった。

 僕の得意とする魔術”魔力の奔流(エナジーストリーム)”を発動させる。

 水色の魔力の奔流が放出され、アンジェラへ迫っていく。

 奔流は一直線にアンジェラを呑み込む――はずだった。


「――いくよッ!」


 小さく、しかしはっきりとした声。

 次の瞬間、彼女の姿が視界から消えた。


「なっ――!?」


 右だ。

 反射的に振り向く。

 剣の軌道を読む。

 速い、だがまだその剣は届かないはず――


「浅いッ!」


 身体を捻って回避。

 頬をかすめる一閃。

 血が一筋、宙に散る。

 だが、それだけだ。


 距離は――まだ離せる。


「はは……なるほど。」


 口元が歪む。


 ――いい。


 ――いいぞ。


 逆に考えれば、

 それでこそ壊しがいがある。

 杖に魔力を集束。

 今度は地中からの――見えない位置からの攻撃で追い詰める。


「避けられるなら、避けてみろよぉぉぉおおお!!!」


 地面を走る魔力の亀裂。

 そこから噴き上がる無数の光条。

 大地を削る連続魔術。


「”魔力の柱(エナジーピラー)”!!!」


 魔術師と剣士の戦いは簡単だ。

 近づかれなければ、戦士に勝機はない。

 弾幕を張ってけん制するのは、僕の十八番(おはこ)だ。


 もう――終わりだ。


 終わり――のはずだった。


 だが。


「……ここで挫ける訳には……いかない!」


 まだだ。

 まだ“そこ”にいる。

 光条の合間を、”まるで安全地帯(存在しないはずの弱点)を知っている”かのようにすり抜けてくる。


「馬鹿な――」


 理解が追いつかない。

 偶然じゃない。

 勘でもない。

 でないとこんなに的確に回避されるわけがない。


 こいつは――


「全部、見えてるのか?」


 口から漏れた言葉に、自分で驚く。


 そんなことありえない。

 僕の魔術は速い。

 僕の魔術は複雑だ。

 読めるはずがない。


 なのに。


「違うわ」


 アンジェラが、わずかに首を振る。


「見えてるんじゃない。……知っているのよ」


 その一歩が、やけに重く響いた。


「……癖があるのよ。」


 心臓が、ドクンと跳ねる。


「詠唱の間。魔力の流し方。打ち込み方。

 ――変わらないね。組んでいた時から。」


 やめろ。

 やめろやめろやめろ。


「アタシが――スカウトした時から変わってない。」


「だまれぇぇぇぇぇぇぇええええッ!!!」


 激情が爆ぜる。

 圧縮。

 増幅。

 限界突破。


 骨が軋むほどに魔力を引き絞り、その魔力を杖の先に集める。


 最大出力の奔流は、もはや“流れ”なんて生易しいものじゃない。

 空間そのものを押し潰す、魔力の塊。

 逃げ場はない。

 避けられる速度でも、規模でもない。


 終わりだ。


 ――そのはずだった。


「……!?」


 アンジェラが立ち止まる。


 降参する様子はない。

 構えを解く様子はない。

 一歩も引く様子はない。


 正面から、こちらを見据えている。


「は……?」


 一瞬、理解が遅れる。

 馬鹿か?

 受けるつもりか?


 アンジェラの剣が――燃え上がる。

 赤く、赤く、真っ赤に輝いている。

 それが何なのか、すぐに気付く。


 赤く。

 激しく。

 荒々しく。

 刃が焼けるように輝く。


「”紅蓮(クリムゾン・ロータス)”!!!」


 (――正気か……)


 思わず、笑いが漏れた。

 いい。最高だ。

 自分から壊れに来るなんて。


「馬鹿め!」


 思わず、叫ぶ。


「自分が何で戦えていたのか――忘れたのかッ!?」


 あの剣は、僕が強化していたからこそ保っていた。

 魔力の流れを整え、負荷を分散し、崩壊を防いでいた。


 “僕がいたから”、戦えていた。


 なのに。


()()()()()お前の剣なんか

 ――砕けるに決まっているだろうがッ!!」


 膨大な魔力をかき集めた杖が振り下ろされる。


「”究極たる(アルティメット)魔力の奔流(エナジーストリーム)”!!!」


 大地が揺らぐ。

 大気が震える。

 青い魔力の奔流と赤い紅蓮の炎が衝突する。


 拮抗する?


 否、ありえない。

 アンジェラの”紅蓮(クリムゾン・ロータス)”の力は尋常ではない。

 それは知っている。


 ――だが。


 彼女の剣はその形を保てない。

 無理やり炎の魔力を纏わせるやり方では必ずガタが来る。

 未熟な彼女の技量では、この最大出力の”究極たる(アルティメット)魔力の奔流(エナジーストリーム)”を斬り破ることは不可能だ。


 終わりだ。


 心の中で確信する。

 今度こそ仕留められる。

 僕の勝ちだ。


「さぁ……惨めに……這いつくばれぇぇぇぇええええッ!」


 一段と奔流が吹き荒れ、

 アンジェラを押しつぶそうとした






 ――その時だった。







 見えた。


 いや、見えてしまった。


 (……なに?)


 剣そのものに絡みつく、緻密な魔力の層。


 僕がやっていたものと――同じ?


 いや。

 もっと無駄がない。

 魔力の二重構造。


 そんな器用な真似――


「――出来るわけが」


 ない。

 押し切れない。

 僕の最大出力が。

 アンジェラの炎に、押し返されている。


 彼女の剣は――健在だ。


 ありえない。


 ありえないありえないありえない。


 壊れるはずだ。

 維持できるはずがない。

 ()()()()()()()()()彼女の”紅蓮(クリムゾン・ロータス)”は成立しないハズだ。


 ハズだった。


「なんで……ッ!」


 アンジェラの足が、半歩、前に出る。


 炎が、唸る。

 外側の火炎が奔流を散らし、

 内側の魔力が触媒たる剣を守っている。


「ふざけるなぁぁぁッ!!」


 さらに魔力を絞り出す。

 だが、届かない。

 紅蓮の炎を押し切れない。

 彼女の歩みを押し返せない。


「……ッディスト!」


 名前を呼ばれる。


 距離は――もう離せない。


「あんたは……強いわ……ッ!」


 炎の向こうで、アンジェラが言う。


「でもッ――」


 さらに一歩。

 踏み込んだ。


「でもアタシ!強くなったのッ!」


 均衡が、崩れ始める。


「あんたに……謝るために!」


「っ――!」


 僕の奔流が――


「”紅蓮の(クリムゾン・)超新星(スーパーノヴァ)”!!!」


 ――砕かれる。












 ――あんた、名前は?

 初めて彼女に出会った時のことを思い出す。


 ――大丈夫?立てる?

 駆け出しでイジメられていた時に貸してくれた彼女の手の温もりを思い出す。


 ――ねぇ、アタシ達と一緒に組まない?

 太陽よりも眩しい彼女の笑顔を思い出す。


 ――ディスト。

 幻聴じゃない。

 彼女が、名前を呼んでいる。


「……アンジェラ」


 名前を呼び返す。

 そう、彼女はアンジェラだ。

 初めて出会った時からずっと変わらない。

 生意気で馬鹿で横暴で……

 ――それでも僕にとって太陽みたいな人だった。


 いつからだろう。

 太陽に焦がれるようになったのは。


 いつからだろう。

 太陽に執着するようになったのは。


 いつからだろう。

 太陽に手が届かないならば――いっそ壊してしまおうと思ったのは。


 粉塵が霧散し、

 視線の先に青空が広がる。




 彼女は――強かった。




「ごめんなさい」


 視界の端に映るアンジェラが頭を下げる。


「色々、ひどいことを言っちゃった……」


 ――カラン……


 炎が消え去り、剣が転がる。

 それを拾い上げることもせず、アンジェラは立ち尽くす。


「……ディスト……酷いこと言って、

 ごめんなさい……

 あんたを捨てて……

 ごめんなさいッ……!」


 彼女が、目を閉じる。

 光が差し込む中で、その頬に一粒の涙が流れ落ちた。


「あ……アンジェラ……ッ……」


 力の限り、声を振り絞る。

 伝えないといけないことがある。


「アンジェラ……ッ……!」


 言わないといけないことがある。

 言わないと後悔することがある。


 だから、叫ぶ。

 力の限り、がむしゃらに。


「アンジェラッ!僕の……方こそっ……!」


 アンジェラは僕のことを罵っていた。

 アンジェラは僕のことを嫌っていた。

 アンジェラは僕のことを拒絶していた。







 それでも――()()()()()()()()()()()()()







 もっときちんと信頼関係を構築すべきだった。

 もっときちんと話し合えば良かった。

 もっときちんと理解し合えば良かった。


 己の未熟さを痛感する。

 自分が思っていた以上に子供だったことに気付く。


 やられて嫌だったからからやり返す。

 相手が先にしたからやり返す。


 そんな幼稚な理由で互いを傷つけあうなんて、馬鹿げている。

 そんなこと理解しているつもりだったのに。


 本当に大事なのは……相手と向き合う勇気だったのに。


「ごめん……アンジェラ……

 ごめんね……アンジェラ……」


 声が震える。

 涙が、零れ落ちる。


 彼女は曇っていた僕の心を再び照らしてくれた。

 彼女は妄執や黒い欲望から僕を解放してくれた。

 彼女と戦うことができて、本当に良かった。


「……ありがとう……アンジェラ……」


















ネーミングが直球すぎるッッッッッッ!

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