07キュートアグレッション
――ドゴォォォォオオオン
え?
顔に拳がめり込む。
衝撃で後ろに吹き飛ぶ。
思考が止まる。
状況が理解できない。
目を開けると――
怒りの形相で立つ金髪ポニーテールの女性――ライカの姿があった。
「……やりすぎだよ。ライカ。」
すっとライカの後ろから、緑髪セミロングの女性――ビルナが現れる。
「やりすぎなのは……ディストの方だろ……」
ズイッとライカがアンジェラを庇うように立つ。
後ろでは裸のアンジェラに銀髪ロングの女性――エリザがローブを羽織らせている。
「まずは、突然殴ったことを謝ろう。ごめん。」
静かに頭を少し下げるライカ。
「でもさ、ディストの行動は許されるものじゃない。」
「あなたのしたことは脅迫です。
服を脱ぐことを強要するなんて、
人間として最低の行為ですよ。」
冷静に詰め寄るエリザ。
その背後で、ビルナも同意するように頷く。
「君たち……どうせ何も知らないんでしょ?」
僕は告げる。
彼女たちには知るべき事実がある。
「君たちはアンジェラに騙されている。」
ビクリとアンジェラが身体を震わせる。
表情は引きつり、目元には涙の跡が浮かんでいる。
僕のパーティ脱退の秘密が暴露されたらどうなるかわかっているようだ。
「僕のパーティ脱退は、全部アンジェラの仕組んだことなんだよ。」
服についた埃を払い、立ち上がる。
「僕の親は大変なことになってないし、
田舎に帰る必要なんてない。
もちろんパーティを脱退するなんて一言もいってない。」
冷静に語る僕の視線の先で、
アンジェラが絶望的な表情を浮かべる。
その手は、自分の身体を抱き寄せるように動いていた。
もうじき、アンジェラは全てを失う。
力も、
地位も、
そして信頼も。
(――楽しい。)
最高に気持ちが良い。
人を追い込む感触が心地好くて仕方がない。
思考が停止するほどの快感が背筋を走り抜ける。
「アンジェラは僕を一方的に追放したんだ。
理由は単純。
彼女はずっと前から僕のことが気に食わなかったみたいでね。
それが爆発して、僕をパーティから追放したんだよ。」
沈黙。
ビルナも、エリザも、ライカも、
表情を変えることなく、じっと僕を見つめ続ける。
「……それは確かにアンジェラが悪いな。」
ライカが静かに口を開いた。
まるで予想していたかのような反応だ。
彼女はアンジェラの行動に不審な点を感じ取っていたのか。
「でもさ。
それでもさ、ディスト。
君の行為は許せないよ。」
ライカが強く言い放つ。
正論すぎて、正直むかつく。
「アンジェラの騙し方は完璧だった。
巻き込まれた君たちに非はない。
ただ僕は、パーティ脱退に納得できなかったんだ。
だから、こうして復讐しているんだよ。」
「でも、見過ごすわけにはいかないよ……」
ビルナが冷静に告げ、
アンジェラを抱き寄せながら非難の視線を向ける。
エリザは何も喋らず、ただ僕を睨み続ける。
「そう……じゃあ、場所を変えよう。
ここで暴れるわけにはいかないでしょ。」
僕は提案する。
宿屋の一室でこのまま殴り合うほど、
僕も、彼女らも無法ではない。
人目に付かないところへ移動するべきだ。
「――待って。」
アンジェラが声を上げる。
「アタシが……全部悪いんだから……」
身体を震わせながら言葉を続ける。
「ディストに……取られたくなかった!
男に……女の子だけのパーティに入り込まれたくなかった!
異性恋愛とかして欲しくなかった!!!」
ボロボロと流れ出す涙。
ぐちゃぐちゃになった顔で、必死に訴えかけてくる。
ライカやビルナたちの視線がアンジェラに集中する。
「全部……アタシの……せい……なの……」
その言葉に心を打たれる。
確かにアンジェラの行動は自己中心的であった。
自分のことばかり考えて他人の気持ちを無視した結果が今の状況。
僕は思わず笑みが浮かんできた。
ああ、本当に楽しい。
可愛い少女がひどく哀れな様子で泣いている。
「アンジェラ……。
泣かないでアンジェラ。
人は過ちを犯すものです。
後悔して、反省して、
次に活かせば良いのです。」
エリザが優しい声音で告げる。
その言葉にアンジェラは反応しない。
ただただ涙を流すだけだ。
「で、ディストは許すつもりなの?」
ビルナが問う。
ライカは黙ったままだ。
「いや、許さないよ。」
即答する。
僕は復讐心に支配されている。
いや、キュートアグレッションに支配されていると言った方が正確かもしれない。
「そう……じゃあさ、明日。
ギルドの修練所で会ってくれる?」
ビルナが冷静に提案する。
こんな状況でも平然と行動できるのは尊敬するべきだろう。
彼女はライカをチラリと見る。
ライカが無言で頷いたのを見て僕も告げる。
「わかったよ。明日、修練所で会おう。
楽しみに待っているね。」
キュートアグレッションに支配されているってなんだよ




