03砕かれるプライド
昼過ぎ。
町からそう離れていない場所にある、打ち捨てられた鉱山。
風が吹き抜け、乾いた音を立てている。
草木は一本も生えていない。
敷設されたトロッコの線路は錆付いている。
削られ、抉られ、役目を終えた土地の匂いがした。
その最下層に――今回の討伐対象がいる。
“アイアンゴーレム”。
鋼鉄の身体を持つ、厄介な魔法生物だ。
「ふふ……」
自然と、笑みがこぼれる。
天気は悪い。風も強い。
普通なら気分が沈むはずなのに――
そんなこと、どうでもよかった。
(ついに……!この時が来た!!!)
胸の奥が高鳴る。
アタシが思い描いていた形。
理想のパーティ。
余計なものは、もうない。
男はいない。
邪魔者もいない。
いるのは――
強くて、かわいくて、アタシの隣に立つにふさわしい”戦乙女”だけだ。
(今日!完成したんだ!)
一時は間違ってディストとかいう男を加入させてしまったが、
あいつは追放した。
男のくせにかわいい顔をしていたから騙されてしまったけど、
ウチのパーティーに男なんかいらないのだ。
必要なのは、強くて美しくて可愛い女性たちだけ。
そして、そんな最高のメンバーを集めて結成した、この“太陽の戦乙女”。
アタシが組み上げた最高傑作パーティー。
誰にも真似できない最強のパーティー。
口元が緩むのを抑えきれない。
「エリザ、魔法の準備を!
ビルナは罠、お願い!」
愛おしい戦乙女たちに指示を飛ばす。
アタシ達は鉱山へと足を踏み入れた。
―――――――――――――――――――――――
内部は思ったよりも浅い。
開業して直ぐに廃棄された鉱山だったのだろうか。
崩落も少なく、足場も悪くない。
階段を下りきると、広い空洞に出た。
岩肌がむき出しの、乾いた空間に。
そして――その奥。
ぽっかりと開いた巨大な穴の中に、
“それ”はいた。
――ズッ……ズッ……
黒い影。
ゆっくりと、
だが間違いなく、動いている。
鉄が軋むような音が、低く響く。
(あれが……)
アイアンゴーレム。
全身が鋼鉄でできた巨体。
並の攻撃じゃ、まず通らない。
でも。
(関係ない!!!)
アタシの剣なら――切れる。
燃え上がる炎。
制御しきれないほどの出力。
私の奥義”紅蓮”。
それを叩きつければ、鉄だろうが何だろうが関係ない。
「みんな、援護お願い!」
一応、声はかける。
でも、正直いらない。
これは――
アタシの見せ場だ。
――ドッ!
地面を蹴る。
一気に距離を詰める。
空気が肌を擦る。
視界の中で、ゴーレムが急速に大きくなる。
剣を構える。
同時に――炎を纏わせる。
赤く、激しく、荒々しく。
刃が焼けるように光る。
(これで終わり!)
振り抜く。
全力で。
何も考えずに。
ただ、”叩きつける”。
「”紅蓮”!!!」
――バキィィィィィィンッ!!!
耳をつんざくような破砕音。
手に伝わる――あり得ない感触。
「……え?」
視界の端で、
“何か”が飛び散った。
それが、自分の剣だと理解するまで、
ほんの一瞬、時間がかかった。
(……え?)
砕けている。
刃が、粉々に。
まるでガラスみたいに。
(……なんで)
あり得ない。
あり得るはずがない。
今まで、そんなこと一度もなかったのに。
どんな相手でも、押し切れていたのに。
(うそ、うそ、うそ――)
思考が止まる。
身体も止まる。
何も、できない。
私は、何も、できない。
その隙を、
見逃す相手じゃなかった。
――ドォンッ!!!
轟音と共に、
視界が、跳ねた。
身体が宙を舞っている。
(あ――)
気づいたときには、
岩壁が、すぐ目の前にあった。
――ドシャァァァァンッ!!!
「かっ――はっ――……」
全身に衝撃。
肺から空気が一気に抜ける。
息が、できない。
「……ッ、ぁ……!」
音が遠い。
視界が揺れる。
何が起きているのか、うまく掴めない。
頭の中がぐるぐる回る。
(なんで……)
今まで、そんなこと一度もなかったのに。
(なんで……)
どんな相手でも、押し切れていたのに。
(なんで……)
理解が、追いつかない。
「アンジェラ!!」
遠くから、ライカの声。
必死な叫び。
その声が――やけに遠く聞こえる。
(やだ……)
胸の奥から、何かがせり上がる。
さっきまでの高揚とは、まったく違う感情。
(これ、死ぬの……?)
初めて。
ほんの一瞬だけ。
そんな考えがよぎった。
「み、みんな……逃げ……て……」
視界が、暗転する。
意識が――落ちていった。
タイトルがヒロイン敗北系小説みたいになったな、って
まぁこれもきっと似たようなもんでしょ




