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02覗き見

 冒険者相互組合――ギルドの扉が、勢いよく開かれた。


 「おーい、みんな! お待たせー!」


 明るい声が、ざわめく室内に響く。

 視線の先――そこには、いつも通りのアンジェラがいた。

 赤い髪を揺らし、どこか得意げな顔で歩いてくる。

 その先には、三人の少女たち。


 金髪のポニーテールを揺らす女格闘家、ライカ。

 緑髪のセミロングの女斥候、ビルナ。

 そして、銀髪のロングヘアの女神官、エリザ。

 三人は併設された酒場のテーブル席で休憩しながら、アンジェラを待っていたらしい。


 「おっそいぞー、アンジェラ」


 ライカが軽く手を振る。

 そして、ふと周囲を見回した。


 「あれ? ディストはどうした?」


 その一言に、場の空気がわずかに止まる。

 ほんの一瞬だけ。

 アンジェラの表情が、微かに揺れた。


 「えーっと……」


 一拍。

 それから、何でもないことのように言った。


 「あいつさ、なんか親が大変らしくて。田舎帰るって」


 軽い調子だった。

 あまりにも、軽すぎるほどに。


 「今日で抜けるんだって。パーティ」


 「えっ、マジで!?」


 ビルナが驚いたように目を丸くする。


 「……それは……少し困りますね」


 エリザは眉を寄せ、

 カチャカチャと紅茶に入ったマドラーを動かしながら、

 静かに言った。


 「でも、仕方のないことです。ご家族の事情なら」


 「……まぁ、そういうこともあるわね」


 ライカも、納得したように頷く。

 誰も疑わない。

 誰も責めない。


 (なるほど……)


 僕は、少しだけ感心した。


 (“そういうこと”にしたんだ)


 視界の中で、アンジェラが笑う。

 ほんのわずかに、口角を上げて。

 それを、僕は見逃さなかった。


 「ともかく!」


 パン、と手を叩く音。


 「今は依頼よ、依頼! さっさと受けて稼ぐわよ!」


 空気を切り替えるように、アンジェラは立ち上がる。

 そして、そのまま依頼ボードへと向かっていく。


 僕は、ただ静かに“見ていた”。

 離れた場所から。

 空中に浮かぶ“目”(レビテーション・アイ)を通して、僕はこの光景を見ている。

 ギルドの天井付近から、見下ろすように。

 誰にも気づかれずに。


 (本当に、よくできてる)


 アンジェラは嘘をついた。

 僕が自ら脱退したことにすれば、

 仲間内の混乱や問題を最小限に抑えられる。


 アンジェラは、女性が好きだ。

 所謂”レズ”というやつだ。


 それは、隠しているつもりなのかもしれないけど――


 正直、わかりやすい。


 ライカを見る目。

 ビルナに触れる距離感。

 エリザに向ける妙な優しさ。


 全部、“同じ方向性”だ。


 (だから、僕は邪魔だった)


 男である僕は、眼中になかった。

 それどころか――


 ――キモい

 ――視線がやだ

 ――なんか無理


 そう言われ続けてきた。


 ……まあ、それはいい。


 問題はそこじゃない。


 「取ってきたわよ!」


 アンジェラが戻ってくる。

 手には、一枚の依頼書。

 その顔には、隠しきれない高揚が浮かんでいた。


 「Aランクの討伐依頼――アイアンゴーレムよ!」


 「おおー、いいじゃん!」


 ライカが身を乗り出す。


 「え~?硬いやつでしょ? 

 めんどくさそうだけど……」


 ビルナが少し不安げに首をかしげる。


 「連携が取れれば対応は可能です。」


 エリザが落ち着いて答えた。


 ――アイアンゴーレム。


 鋼鉄の身体を持つ魔法生物。

 並の攻撃では傷一つつかない。

 実質的には、Sランクに片足を突っ込んでいるような存在だ。


 (なるほどね)


 僕は、静かに納得する。

 確かに、アンジェラの“火力”なら通用する。

 あの、紅蓮のごとくの燃え上がる炎なら。


 ただし。


 (あの剣が“保てば”の話だけど)


 僕は、少しだけ目を細めた。

 視界の中で、アンジェラが笑っている。

 自信満々に。

 何も知らない顔で。


 「決まりね!準備して!すぐ出るわよ!」


 その声を合図に、三人が立ち上がる。

 いつも通りの号令。

 いつも通りの出発。

 ただ一つ、違うのは。


 そこに、僕がいないことだ。


 (さて……)


 僕は、静かに呟いた。


 (どこまで持つかな)


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