第92話 公の言葉
再開から十日。
港湾広場に、再び人が集まった。
だが今回は、怒号ではない。
告知は一つ。
――アーデル・マルクス、声明発表。
壇上に立った彼は、以前よりも静かな表情だった。
「私はこの制度を批判してきました」
広場が静まる。
「今も、全面的に賛成しているわけではありません」
率直な前置き。
「公開は、人を傷つけ得る」
「それは変わらない」
頷く者もいる。
「だが――」
彼は、新しい表示画面を背後に映し出す。
失敗履歴の上に改善率。
再評価注記。
誤差範囲。
「以前は、失敗が単独で歩いていた」
「今は、物語が分断されにくい」
ざわめきが起きる。
「完璧ではない」
「だが、制度は応答した」
その言葉は重い。
エリシアは本部から中継を見ている。
アーデルは続ける。
「私は凍結を求めた」
「だが今は、監視を続ける」
「壊すためではなく、続けさせるために」
広場の空気が、わずかに変わる。
「透明性は理想ではない」
「だが、隠蔽よりはましだ」
以前、彼が語った言葉に近い。
「制度は人のためにある」
「だから、人の声で修正させる」
拍手が起きる。
熱狂ではない。
だが、否定でもない。
その夜、世論調査の速報が出る。
・支持 49%
・条件付き支持 34%
・不支持 14%
支持が初めて過半に近づく。
王宮。
レオンハルトは資料を見て、小さく息を吐く。
「政治は六割を目指すと言ったな」
側近が言う。
「制度は、五割で立てるかもしれない」
ハルフェン。
エリシアは広場の映像を見つめている。
アーデルは壇上を降り、群衆に紛れた。
勝利宣言はない。
だが、対立もない。
制度は、完全には受け入れられていない。
だが、完全にも拒絶されていない。
揺らぎの中で、立っている。
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