第91話 揺らぎの中で
再開から一週間。
レナ・クロイツの処遇が、最終決定を迎えていた。
改竄は未遂。
損害なし。
自首に近い供述。
だが、制度への侵入は事実だ。
会議室には、エリシアとレナだけがいる。
「懲戒免職にはなりません」
エリシアが告げる。
「降格と一定期間の監査下配置」
レナは静かに頷いた。
「当然です」
「あなたの行為は間違っていた」
「はい」
迷いのない返答。
「ですが、動機は理解しています」
レナの視線が揺れる。
「理解されても、父は戻りません」
その声は、怒りではなく疲労だ。
「公開は正しかった」
「でも、父は職を失った」
「改善も、努力も、数字にならなかった」
エリシアは少しだけ間を置く。
「今の表示なら、どうでしょう」
新フォーマットを示す。
失敗履歴。
改善率。
再発なし。
第三者評価の追記。
レナは画面を見つめる。
「前よりは……違います」
「少なくとも、最初の失敗だけではない」
沈黙。
「私は制度を止めたかった」
レナが言う。
「でも、本当は――」
言葉が途切れる。
「本当は、見てほしかった」
その一言は重い。
失敗ではなく、その後を。
「制度は冷たい」
「数字は感情を持たない」
「だから、注記を入れました」
エリシアは言う。
「制度が、少しだけ後から補足する」
レナは目を伏せる。
「完全ではありません」
「ええ」
「でも、完全な制度はありません」
エリシアは静かに続ける。
「揺らぎは、内部にもある」
「あなたの行為も、その一部です」
レナは顔を上げる。
「私は戻るべきでしょうか」
「戻ってください」
即答だった。
「壊しかけた人間が、守る側にいる」
「それは制度にとって強い」
レナの目に、初めて微かな光が宿る。
「……やり直します」
会議室の外、港の風が通り抜ける。
制度は揺れた。
内部からも。
だが、壊れなかった。
揺らぎを抱えたまま、続いている。
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