第88話 再開前夜
再開前夜。
ハルフェンの灯りは、どこか静かだった。
公開枠組み本部の執務室には、まだ明かりが残っている。
最終確認書類。
再開告知文。
修正項目一覧。
すべて、整っている。
ヴァルドが最後の報告を終える。
「三層表示、安定」
「ランキング機能停止」
「誤差範囲明示、正常」
「再評価制度も稼働可能です」
エリシアは頷く。
「ありがとう。今日はもう休んで」
室内が静まり、やがて一人になる。
机の上に置かれた再開ボタンの認証端末。
明朝、これを押せば再開される。
押さなければ――
再延長も可能だ。
政治的には危険だが、不可能ではない。
窓の外、港の水面が揺れる。
公開は止まっている。
市場は息を潜め、
議会は様子を見ている。
この静けさを保つ選択もある。
止めたままにする。
凍結ではないが、事実上の延長。
傷は広がらない。
だが、腐敗の芽は見えなくなる。
「……守るとは何か」
独り言が落ちる。
人を守る。
制度を守る。
国家を守る。
全部は守れない。
机の上には、レナの供述記録がある。
『少しだけ、止めたかった』
アーデルの言葉が重なる。
『永遠の罰になる』
そして、王子の声。
『揺らぎは制度の一部だ』
エリシアは、目を閉じる。
公開は正義ではない。
だが、隠せば責任は消える。
傷つく人は出る。
それでも、見えない傷よりは、見える傷の方が直せる。
ゆっくりと立ち上がる。
認証端末に手を置く。
指先が止まる。
最後の機会。
止める自由もある。
だが――
「選ぶ」
小さく、はっきりと呟く。
端末から手を離す。
再開は、予定通り。
逃げない。
揺らぎごと、引き受ける。
夜は静かだ。
明朝、制度は再び動き出す。
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