第83話 守るものの違い
王宮の執務室は、夜でも灯りが落ちていなかった。
机の上には、三十日間の工程表が広げられている。
表示形式改修。
文脈保護条項。
再評価申請制度。
拡散抑止技術。
レオンハルトは、その一覧を黙って見つめていた。
扉が叩かれる。
「入れ」
エリシアが入室する。
向かい合うのは久しぶりだった。
議場での対立以来、二人きりで話していない。
「一時停止は、あなたの勝ちだ」
王子が先に言う。
「勝敗ではありません」
「政治は勝敗だ」
淡い苦笑。
「だが、今回は違うか」
沈黙。
「私は維持を選んだ」
レオンハルトが言う。
「制度が揺らぐことを恐れた」
「私は停止を選びました」
エリシアが続ける。
「人が壊れることを恐れた」
視線が交差する。
「どちらも間違いではない」
「ええ」
「守る対象が違うだけです」
王子は机に手を置いた。
「私は国家を守る」
「あなたは制度を守る」
「そして今は、人を守ろうとしている」
エリシアは静かに頷く。
「制度は人のためにある」
「ですが、人は制度を通してしか守れないこともある」
言葉が少し柔らぐ。
「あなたは変わった」
レオンハルトが言う。
「以前は、もっと揺らがなかった」
「揺らいでいます」
正直な答え。
「正しさだけでは足りないと知りました」
王子は小さく息を吐く。
「それでも、私は維持を選ぶ」
「三十日後、再開する」
「そのとき、弱くなっていないと証明してほしい」
エリシアはまっすぐに応じる。
「弱くはなりません」
「形が変わるだけです」
静かな間。
「あなたを追放したとき」
王子が不意に言う。
「私は“管理できないもの”を恐れた」
エリシアは目を細める。
「今は?」
「今は、あなたが管理できないものを抱え込んでいる」
わずかな笑み。
「だから私は、あなたの背後を守る」
エリシアは一瞬言葉を失う。
「それが、私の役割だ」
衝突は終わっていない。
だが、対立ではなく分担になった。
窓の外、港の灯りが揺れる。
三十日は短い。
だが、壊すよりは長い。
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