第80話 一時停止案
延期された採決は、三日後に再設定された。
その間に、公開枠組みは対応案をまとめる必要がある。
会合室には重い空気が漂っていた。
エリシアは、用意してきた資料を卓上に置く。
『公開枠組み・限定的一時停止案』
ざわめきが起こる。
「停止期間は三十日」
「新規の失敗履歴公開を一時保留」
「既存履歴は表示形式を変更」
「改善履歴を最上段に」
「文脈説明を必須化」
ヴァルドが唇を噛む。
「これは……後退です」
「修正です」
エリシアは静かに言う。
「制度は揺らいでいます」
「揺らいだまま進めば、折れる」
アルノーが問いかける。
「止めれば、信用は戻りますか」
「分かりません」
正直な答えだった。
「だが、傷口を広げ続けるよりは」
沈黙。
そのとき、扉が開く。
レオンハルトが入室する。
彼は資料を手に取り、最後まで目を通す。
「三十日で何をする」
「設計の見直しです」
「文脈保護機構の組み込み」
「切り取り防止策の実装」
「……時間を稼ぐのか」
「時間を使います」
王子は、ゆっくりと息を吐く。
「止めることは、敗北ではない」
エリシアが言う。
「ですが、続けることもまた、責任です」
視線がぶつかる。
どちらも間違っていない。
だが、選択は一つだ。
「私は反対だ」
王子ははっきり言った。
「停止は、制度への不信を固定する」
「揺らぎは乗り越えるべきだ」
エリシアは、目を逸らさない。
「揺らぎで人が潰れるなら?」
短い沈黙。
「制度は人のためにある」
「だが、制度が人を傷つけるなら」
言葉が重なる。
会合室の全員が、息を詰める。
レオンハルトは静かに告げた。
「議会に委ねる」
「私は維持を主張する」
エリシアは頷く。
「私は停止を主張します」
立場は分かれた。
理念は同じでも、選択は違う。
その夜、広場では再び集会が開かれる。
そして、翌朝。
議会で、凍結案と一時停止案が同時に審議にかけられることが決まった。
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