第65話 制度は無力か
帝国の共同管理提案は、理路整然としていた。
・資本比率は均衡
・雇用維持条項
・港湾設備の近代化投資
・透明性の継続保証
公開記録板に全文が掲示される。
不正はない。
条項も公正。
だからこそ、厄介だった。
「拒否すれば、理念を曲げる」
アルノーが言う。
「受ければ、主権が薄れる」
ヴァルドが続ける。
会合室は静まり返る。
エリシアは、条文を読み続ける。
数字は正しい。
論理も破綻していない。
だが、違和感が消えない。
「制度は、無力でしょうか」
誰ともなく漏れた声。
公開は不正を暴く。
内部腐敗を防ぐ。
効率も統合した。
だが、国家間の力の差は埋められない。
その夜。
王宮。
「帝国案を受け入れる方向で調整を」
議会多数派の声。
「経済安定が優先だ」
レオンハルトは、窓の外を見る。
港の灯りが揺れる。
「安定とは、誰の安定だ」
低い声。
ハルフェン。
エリシアは、一人で記録板を閉じた。
公開は、すべてを見せる。
だが、守らない。
守るのは、政治。
守るのは、外交。
守るのは、設計。
机に向かい、静かに書く。
『公開は万能ではない』
初めて、明確に認める。
ヴァルドが入室する。
「帝国側は、王国の拒否を想定していません」
「当然です」
「なぜですか」
「合理的だからです」
拒否する理由が、理念以外にない。
理念は、数値で勝てない。
しばらく沈黙。
「では、どうします」
エリシアは、ゆっくりと顔を上げる。
「問いを変えます」
「問い?」
「帝国を排除するのではなく」
白紙に、新たに書く。
『相互透明性協定』
「一方的な公開が問題なら、
対称にする」
ヴァルドが目を見開く。
「帝国も、同等の産業依存率、
資本流動、構造弱点を公開させる?」
「ええ」
「受け入れますか」
「受け入れなければ、
帝国は透明性を拒む国家になる」
理念を、武器にする。
イグナーツの言葉がよぎる。
『時間は対等ではない』
「ならば、時間を作ります」
共同管理案の回答期限は三日。
第5章は、防戦から設計戦へ移った。
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