第58話 最適化の限界
採決まで、二日。
市場は一見、安定している。
予測淘汰モデルを採用した都市では、
短期指標は改善を維持。
投資回収率は上昇。
事故率は低下。
だが。
「新規参入が、半減しています」
学術院からの報告だった。
公開記録板に、新しい統計が表示される。
・新規商団登録数:前年比-四八%
・小規模契約成立率:減少傾向
・資金集中度:上昇
「参入障壁が上がっています」
ヴァルドが言う。
「失敗確率が高いと予測される段階で、
資金が集まりません」
挑戦が、始まる前に止まる。
カイは、冷静に資料を見ている。
「短期的現象です」
「理由は?」
エリシアが問う。
「淘汰が進めば、
優良団体が市場を安定させる」
理論は一貫している。
だが、その夜。
予測外の事態が起きた。
大規模輸送契約で、遅延が発生。
原因は、予測外の気候変動。
従来なら、周辺小規模団体が補完する。
だが。
「補完団体が存在しません」
制限・縮小の波で、
中間層が薄くなっていた。
結果、遅延は拡大。
大規模団体も影響を受ける。
市場が、揺れた。
「……柔軟性の低下」
エリシアが静かに言う。
効率は、無駄を削る。
だが、無駄は時に緩衝材になる。
カイは、数値を確認する。
「確率は低い事象です」
「ですが、発生しました」
エリシアは視線を逸らさない。
「モデルは、平均を最適化します」
「ええ」
「ですが、極端事象に弱い」
沈黙。
セオドアも、初めて眉をひそめた。
損失は限定的だが、
“揺らぎ”が見えた。
「淘汰は強い」
エリシアは言う。
「ですが、循環が減れば、
衝撃に弱くなります」
カイは、しばらく黙る。
「動的評価指数は、
この問題を解決すると?」
「完全ではありません」
率直な答え。
「ですが、中間層を残します」
挑戦途中の団体が存在すれば、
補完機能が働く。
効率は下がる。
だが、耐久性は上がる。
会合室の空気が、変わる。
効率支持派の一部が、沈黙に入った。
数字は強い。
だが、現実も数字で示された。
採決まで、二日。
第4章は、完全な二項対立から、
構造論争へと深化した。
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