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婚約破棄されたので、王宮を出て制度を作り直します ~王国の財政を握っていたのは私でした~  作者: 月守いとは


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第57話 再挑戦の証明

 動的評価指数は公開されたが、支持はまだ拮抗していた。効率条項支持が四割。動的指数支持が三割。未定が三割。決め手がない。


 採決までは、あと三日ある。三日で一割が動いた例を、エリシアは知らなかった。


 根拠事例二件、と末尾に書いたことが効いていた。効いた方向は、悪いほうだった。正直に書いた数字は、正直だからという理由では通らない。


 そのとき、公開記録板に新しい更新が表示された。


『リリア商団:短期契約成立』


 小規模な輸送契約だった。利益は大きくない。だが、重要なのは内容だった。金額の欄より、その下に並んだ日数の欄のほうが長い。日数を書く欄を作ったのは先月で、埋まったのはこれが初めてだった。


 再建計画から二十七日。是正措置の実施率、九割。判断遅延、ゼロ。回転率改善、十二パーセント。


 動的評価指数に当てはめると、失敗確率は下がる。改善速度が高い。


「……間に合いました」


 ヴァルドが小さく言う。間に合った、という言い方をしたのは、彼もどこかで待っていたからだろう。


 リリアは、その日の午後、静かに会合室へ入ってきた。手には簡潔な報告書がある。表紙は無く、一枚目から本文が始まっていた。


『再挑戦過程における改善速度の重要性』


 彼女は壇上に立った。報告書は綴じられておらず、紐も通っていない。今朝まで書き足していた形のままだ。


「私は失敗しました」


 会場は静まり返る。失敗しました、から始める報告を、この場の誰も聞いたことがない。


「公開で、その事実は残りました。融資は止まりました」


 だが、と彼女は続けた。


「改善は、履歴に反映されにくい」


 報告書を掲げる。


「私の失敗は三件です。ですが、是正までの日数は業界平均より短い。それを示す欄が、今の様式にはありません」


 カイも黙って聞いている。手元の資料を開いていない。開かずに聞くのは、この人にしては珍しかった。


「淘汰は理解します。ですが、淘汰前の回復可能性は、測るべきです」


 その言葉は、動的評価指数そのものだった。条文を読んで言っているのではない。読む前から、そこにいた人の言葉だった。


 誰かが質問した。質問した相手の顔を、この会場の全員が覚えることになる。


「あなたの商団は、根拠事例の二件目ですね。当事者が壇上に立つのは、公平ですか」


 会場が少しざわつく。当事者、という言葉は、正しい指摘のときほど強く刺さる。


 リリアは、質問した相手のほうをまっすぐ見た。まっすぐ見てから、答えるまでに一拍あった。


「公平ではありません」


 彼女は認めた。


「ですから、私の数字はすべて記録板に出してあります。今日の話が嘘なら、明日には分かります」


 質問した男は、それ以上言わなかった。明日には分かります、と言われて、返す言葉が無い。


 会合後、カイが近づいてきた。壇の前で、人が引くのを待っていた。


「あなたは、例外かもしれない」


「かもしれません」


 リリアは正面から答える。例外かもしれない、と言われて、否定しなかった。


「ですが、例外を切り捨てる制度は、いつか自分も切ります」


 沈黙。壇の下で、誰かが椅子を引く音がした。


「一つ聞かせてください」


 カイは言った。


「二十七日のあいだ、何をしていましたか」


「返す当てのない金を、返す順番に並べていました」


 リリアは答えた。


「並べ終わるまでに、十九日かかりました。残りの八日で、一件だけ契約が取れました」


「十九日は、何も生んでいない」


「生んでいません」


 彼女は頷いた。


「ですが、並べ終わっていなければ、八日目に取れませんでした」


 カイは、それきり何も聞かなかった。十九日という数字を、手帳にも書き取らなかった。書き取らなくても覚える種類の数だと、たぶん彼も知っている。


 その夜、市場がざわついた。リリア商団の頁の閲覧数が急増する。再挑戦基金との連携。改善速度の可視化。一部の投資家が小口の出資を始めた。


 大きくはない。だが、流れが止まった。止まるという状態は、記録板では何の色も付かない。付かないから、誰も更新に気づかない。


「理論は、人で証明されます」


 エリシアは静かに言った。


「まだ足りませんが」


「ええ」


 カイのモデルは強い。だが、動的指数は未来の変化を扱える。


 翌朝、カイから公開意見が出された。


『動的評価指数は、補助指標として有効』


 否定ではない。だが、主指標には反対。


 その公開意見の末尾に、彼はもう一行足していた。根拠事例が二件であることを、意見書の側が自ら明記した点を評価する、と書いてある。


 エリシアはその一行を三度読んだ。それから、記録板の自分の意見書を開き、根拠事例の欄に三件目を追加した。リリア商団の二十七日の内訳だった。

理論は人で証明される、と言い切った直後に「まだ足りませんが」と足すのが、この作品の癖です。十九日は何も生まなかった。生まなかった日数を、この話でようやく数える側に回しました。次回、学術院の雑嚢にまた宛名のない統計が入っています。新規登録は半減。そこへ、季節外れの高潮が来ます。

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