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婚約破棄されたので、王宮を出て制度を作り直します ~王国の財政を握っていたのは私でした~  作者: 月守いとは


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第13話 成功の裏側

 港湾都市ハルフェンは、かつてない活気に包まれていた。


 入出港の待ち時間は半減し、事故率は過去最低。

 保管ロスは記録上、ほぼゼロ。


 数字は、文句のつけようがなかった。


「素晴らしい成果です」


 会議室で報告を受けた同盟幹部の一人が、満足げに頷く。


「これほど短期間で結果が出るとは」

「さすがはアルノー殿の制度設計だ」


 称賛の視線が、アルノー・リヒターに集まる。

 彼は軽く手を上げ、評価を受け流した。


「設計の検証をしただけだ。

 制度は、正しく使えば応えてくれる」


 その視線が、エリシア・フォン・ルーヴェルへと向けられる。


「外部顧問として、意見は?」


 エリシアは、一瞬だけ間を置いた。


「数字の上では、完全です」


 それは事実だった。

 誇張でも皮肉でもない。


「ただし」


 彼女は、用意していた資料を机に置いた。


「“港の外”で起きていることも、報告しておきます」


 室内の空気が、わずかに引き締まる。


「作業員の契約更新率が、想定より早く下がっています。

 特に、四十代以上の層です」


「効率が低い層だな」


 アルノーは、即座に応じた。


「再教育プログラムは?」


「存在しません」


 エリシアは、淡々と答える。


「彼らは、港の外で非公式労働に流れています。

 記録に残らない形で」


「違法ではない」


「はい。

 ですが、制度の外に押し出されています」


 幹部の一人が、眉をひそめた。


「それが、何か問題か?」


「今は、問題になりません」


 エリシアは、正直に言った。


「ですが、積み重なります」


 彼女は、別の資料を開く。


「港湾周辺の治安指標に、わずかな変化が出ています。

 まだ誤差の範囲ですが――」


「誤差だ」


 アルノーが遮る。


「制度を疑うには、弱すぎる」


 エリシアは、否定しなかった。


「ええ。だからこそ、今は“記録”に留めます」


 会議は、そのまま成果の確認で締めくくられた。

 誰も反対はしない。

 反対する理由が、数字上は存在しないからだ。


 会議室を出た後、アルノーがエリシアを呼び止めた。


「不満か?」


「いいえ」


 エリシアは首を振る。


「これは、あなたの制度です。

 成功しています」


「なら、それでいい」


 アルノーは、港を見下ろす。


「全員を救おうとすれば、全体が沈む。

 それは、君も理解しているはずだ」


「理解しています」


 エリシアは、静かに答えた。


「だから私は、止めません」


 アルノーは、わずかに目を細めた。

 それは、評価とも警戒とも取れる視線。


 その夜。


 港の外れ、古い倉庫街で、エリシアは一人の男と話していた。


 元港湾作業員。名はトーマス。

 長年、この港で働いてきた。


「……俺たちは、遅いんだそうだ」


 男は苦笑する。


「若い連中の足を引っ張るって」


 エリシアは、何も言わなかった。


「悪い制度じゃない。

 仕事も、確かに楽になった」


 トーマスは、足元の石を蹴る。


「ただ……俺の居場所は、なくなった」


 その言葉は、静かだった。

 怒りも、恨みもない。


 エリシアは、胸の奥が締めつけられるのを感じた。

 だが、それを表に出さない。


「……今は、どうしていますか」


「倉庫の荷運びを、日雇いで。

 記録には残らない仕事だ」


 制度は、彼を救わなかった。

 だが、違法でもない。


 帰り道、エリシアは帳簿を開いた。

 そこに、短く書き込む。


『成功事例:港湾効率向上

 副作用:中高年労働者の制度外流出』


 ペンを置き、しばらく考える。


 アルノーの制度は、正しい。

 そして、自分が提案する“緩衝”は、非効率だ。


 それでも。


「……これは、放置していい数字ではない」


 呟きは、誰にも届かない。


 港は今日も、完璧に回っている。


 その完璧さの裏で、

 いくつもの“名前のない脱落”が、静かに増えていくことを――

 まだ、誰も本気では見ていなかった。


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