第102話 対等という約束
教育分野の方針転換は、すぐに公表された。
『教育機関における公開枠組みは、支援指標中心へ移行』
順位なし。
比較なし。
個人評価なし。
代わりに、必要な支援量と改善状況のみを可視化する。
世論は再び割れた。
「甘すぎる」
「現実的だ」
「競争がなくなる」
「子どもを守るべきだ」
だが、大きな炎上にはならなかった。
誰もが、どこかで理解していた。
港と同じではない、と。
王宮。
執務室に呼ばれたエリシアは、扉の前で一度だけ立ち止まった。
ノックをする。
「入れ」
レオンハルトは机に向かっていたが、すぐに顔を上げた。
「報告は受けている」
「教育分野の修正」
「問題なく移行しています」
短い確認。
だが、それだけでは終わらなかった。
「……あのとき」
王子が言う。
「お前を追放したときのことだ」
エリシアは静かに立ったまま聞く。
「私は、管理できないものを排除した」
「それが最善だと思っていた」
沈黙。
「だが違った」
視線がまっすぐ向く。
「お前は、管理できないものを抱えた」
制度の揺らぎ。
人の感情。
想定外の傷。
「そして、捨てなかった」
エリシアはゆっくりと言う。
「捨てられなかっただけです」
「同じだ」
短い言葉。
しばらく沈黙が続く。
やがて王子は立ち上がった。
「戻れ、とは言わない」
エリシアの目がわずかに動く。
「以前の関係には戻らない」
「戻れない」
それは当然だった。
もう、同じ立場ではない。
「だが」
王子は続ける。
「これからは、対等でいたい」
静かな提案。
命令でも、依頼でもない。
「制度の設計者として」
「国家の責任者として」
「そして」
一瞬だけ言葉を選ぶ。
「……一人の人間として」
エリシアはすぐには答えなかった。
あの日とは違う。
選ぶ側にいる。
「私は、誰かの隣に立つためだけには動きません」
「知っている」
即答だった。
「だからこそ、隣に立ってほしい」
言葉は静かだが、重い。
エリシアは少しだけ視線を落とし、そして上げた。
「今すぐの答えは出しません」
「それでいい」
「ですが」
一歩だけ近づく。
「対等であることは、受け入れます」
それは拒絶ではない。
だが、許しでもない。
新しい関係だった。
王子は小さく息を吐く。
「十分だ」
窓の外、港の灯りが見える。
かつては遠かった場所。
今は、同じ景色を見ている。
「選び続けるんだな」
王子が言う。
「はい」
エリシアは答える。
「制度も、関係も」
完成はない。
だが、やり直すことはできる。
対等な場所からなら。
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