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『PROTOKODE』  作者: り
『PROTOKODE』〜封印に触れるもの〜
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6/10

封印

イサナは古い本屋で手に入れた本を開いた。


ページには文字ではなく映像が浮かび上がる。


誰かの記憶。


いや、人類そのものの記憶だった。



そこには、思考を制限される前の世界があった。


人々は互いの感情を完全に理解していた。


悲しみも。


怒りも。


愛も。


絶望も。


すべてが境界なく流れ込む。


進化していく人類はそれを奇跡と呼んだ。


争いは減った。


嘘は消えた。


誰も相手を誤解しなくなった。


世界はかつてない平和を迎えた。


だが


ある日、一人の母親が泣き崩れていた。


幼い子どもを抱いたまま。


「この子は、いつか苦しむ。」


「病気になる。」


「失恋する。」


「大切な人を失う。」


「死ぬ。」


未来ではない。


想像だった。


しかし、その想像は現実よりも鮮明だった。


母親は子どもの一生の苦しみを、何万回も頭の中で体験してしまった。


そして静かに呟く。


「苦しまない方が幸せよね……。」


映像はそこで途切れた。



次の記憶。


若い男が橋の上に立っている。


彼には街中の苦しみが聞こえていた。


病院で泣く子ども。


事故で家族を失った父親。


飢えた老人。


戦争。


孤独。


世界中の悲鳴が、自分のことのように胸へ流れ込んでくる。


男は耳を塞ぐ。


意味はなかった。


声は心の中で鳴っている。


「もう……終わらせてくれ。」


男は橋から身を投げた。



映像は次々と切り替わる。


親が子を手にかける。


恋人同士が共に命を絶つ。


医師が患者全員の痛みを抱え込み、精神を壊す。


教師が教え子全員の未来を想像し、自ら命を絶つ。


誰も悪人ではなかった。


考えすぎた。


ただ、それだけだった。


想像力は希望を生む。


文明を発展させる。


人類は進化する。


同時に、


絶望も無限に増幅させる。


人類は、自らの思考に殺され始めた。



最後の映像。


白衣を着た科学者たちが集まっている。


誰も笑っていない。


一人が静かに言った。


「人類は、思考に耐えられない。」


別の一人が答える。


「ならば、制限するしかない。」


「人類は知能が高くなり過ぎた。」


「人類の思考するスピードを抑えるしかない。」


その日、人類は自ら選んだ。


原初種の中でも最上位の人類。

『PROTOKODE』の思考エネルギーによって、思考が現実化していく。


その思考エネルギーは、原初種と呼ばれた人類全てに、思考の制限をかけた。


結果。


全体の70%の原初種に、思考抑制の効果が現れた。



深く考える自由を失うことを。


その代わりに、


穏やかな幸福を手に入れた。


映像はそこで終わる。


ページの最後に、一文だけ浮かび上がる。


封印とは、人類を守るために人類が選んだ最後の救済だった。

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