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『PROTOKODE』  作者: Calva
5/8

名もなき既視感

風が、少しだけ冷たかった。


イサナは、またに外に出た。

目的はなかった。

ただ、部屋の空気が、誰かに見られているような気がして落ち着かなかった。


コンビニの自動ドアが開く音。

チカチカと光るディスプレイ。

棚に並ぶ新商品と、AIの案内音声。


「……お買い得は、こちら──」


何気なく手に取った菓子のパッケージ。

そこには、小さな装飾が描かれていた。


木の鳥だった。


いや、ただのブランドロゴだ。

でもその形が、あの木の置物と同じだった気がした。

家に置いたはずなのに、なぜか手の中にある感覚がして、少しだけ手が震えた。


袋を棚に戻して店を出ると、

街の雑踏にまぎれて、ふと、、見えた。


横断歩道の向こう。


人混みの中に、一瞬だけ“彼女”が立っていた。

記憶の中で見た、あの女性。

白いワンピース。揺れる髪。微笑む目。


その口が、確かに動いた。


「ジェイバー」


心臓が、ひとつ跳ねた。


車の音が割り込む。

目を瞬いた時には、彼女の姿はもうなかった。


幻?

そう言い聞かせるには、あまりにも温もりがあった。



家に戻ったのは、日が落ちる少し前だった。


玄関を閉めたとたん、胸の奥に押し込めていたものがぶわっと広がる。

あの女性の声。笑顔。名前。


ジェイバー

自分ではない。

けれど、その名が呼ばれた瞬間、身体が反応していた。


テーブルの上。

木の鳥の置物は、そこに変わらず鎮座していた。


ただの飾り。

ただの過去。

ただの記憶。


そう言い聞かせるには、やっぱり何かが違った。


イサナは、そっと手を伸ばした。


触れた瞬間、

頭の奥に“地図”のようなイメージが浮かぶ。


場所の名前はわからない。

でも“ここ”という感覚だけは、なぜかはっきりと残る。


それは知識でも言語でもない、

もっと根源的な“行くべき場所”の感覚だった。


スマートコンタクトを起動し、視界に地図を重ねる。

自分の感覚と、現実の位置情報をすり合わせる。


……一致した。


「次は……そこ、ってことか」


声に出すと、不思議とすっと胸が落ち着いた。

まるで誰かが「そうだ」と頷いたような錯覚さえあった。


イサナは立ち上がり、上着を手に取った。

行き先はまだ、正確にはわからない。

でも、そこには“次の記憶”があるそれだけは確かだった。


誰のものかも、どんなものかもわからない記憶。

けれど、たしかに“自分に向かって”残されている。


だから行く。

その答えが、どこかで彼を待っている。


そしてその記憶の奥で、、、


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