表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『PROTOKODE』  作者: り
『PROTOKODE』〜封印に触れるもの〜
4/8

自由とは

イサナは喫茶店の窓際に座っていた

テーブルには飲みかけのコーヒー

向かいにいるのはリョウだった

高校の頃からの友人で

いつも何かと理由をつけて会いにくるやつだった


「相変わらず難しい顔してるな」

リョウは笑いながらカップを傾ける

「最近みんな薬もらってるだろ あれ 飲むと本当に楽になるらしいぞ

 考えすぎると体壊すからさ」


イサナは窓の外の流れを見ていた

「……みんな それで満足してるのか」

「満足してるよ 当たり前だろ」

リョウは笑って指でテーブルを叩いた

「俺たちが考えなくても 誰かが考えてくれる

 誰かが間違わないようにしてくれてる

 だから 俺たちは笑っていればいい」


その言葉は あまりに穏やかで

まるで子どもを寝かしつけるような優しさがあった

イサナは少しだけ目を伏せた


「それは……幸せなのかもな」

「だろ? 知らないって 悪いことじゃないんだよ

 知ると苦しくなる だから俺は もう十分だって思ってる」


リョウの声には温度があった

心のどこかで その平和を否定できない自分がいた



外に出ると風が甘い匂いを運んできた

街角では薬の配布所が開かれている

“精神干渉防止薬 無料配布中”

白い幕が風に揺れ

人々が笑顔で薬を受け取っていく

リョウもその列に加わった


「これ飲むと楽になるんだよ

 変な夢も見なくなるし 余計なことも考えなくなる

 それって すごいことだと思わない?」


イサナは答えなかった

空には “幸福指数 上昇中” の文字が浮かび

スピーカーから穏やかな音楽が流れていた

誰もが穏やかで 誰もが満たされている


世界は幸福だった

その幸福が 嘘ではないことを イサナは理解していた


だからこそ 苦しかった


「……確かに きれいだな」

リョウが振り返る

「だろ?」

「でも きれいすぎる」

「何が悪い?」

「傷がないってことは 誰も本気でぶつかってないってことだ」


リョウは笑って肩をすくめる

「お前は昔からそうだな 正しいこと言ってるけど

それでは誰も救えない」


その言葉が 胸の奥に刺さった

イサナは息を吐き出す


「……たぶん俺は 正しくありたいんじゃない

 本当でありたいだけなんだ」


リョウが目を細めた

「本当なんてどこにある? みんなの幸せの方が大事だろ?」

「違う 幸せは作れるけど 真実は作れない」


リョウは何かを言いかけたが

そのとき遠くでアナウンスが響いた

——【思考干渉防止区域を拡大します】

空が白く光り始め 人々の笑顔が一斉に同じ方向に向いた


その光景の中で イサナは静かに呟いた

「自由って 何だろうな」

リョウが言う

「余計なことは考えず 選ばなくていいことだよ」

イサナは首を振る

「選び続けることだよ」


その瞬間 リョウの笑顔が少しだけ揺れた



部屋の明かりは消えていた

窓の外には 同期衛星の青い軌道がゆっくり流れている


イサナは机に手をつき 小さく息を吐いた

コンタクトのUIが勝手に点灯する


【幸福度:安定】

【思考干渉:軽度検知】

【抑制プログラムを起動しますか?】


「……いいよ 起動しなくて」


【確認:自由意志による選択ですか?】


「自由意志?」

イサナは笑う

「その言葉に まだ意味が残ってるなら そうだって答えるよ」


机の上の本が微かに光る

『世界の真実と命の意味』

その文字が呼吸のように脈打っていた


「知ることは痛みだ でも知らないことは もっと痛い」

「だから俺は 進む」


【プロトコード:再起動を検出】

視界が白く弾ける

音が遠ざかる

心臓の鼓動だけが 世界の中心になった



自由とは 選べることじゃない

選び続けることだ

無知を選ぶ者も 真実を選ぶ者も

どちらも幸福を願っている


けれど 無知の幸福は 他者が守る世界でしか生きられない

真実の痛みは 自分でしか耐えられない


だから イサナは進む

世界の誰もが立ち止まるその先へ


痛みを抱いて それでも自由であるために


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ