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マミコ、非日常(三)

「完全に見失ったわ」


 マミコが背もたれに体を預けて言うと、


「まだ諦めるのは早いですよ」


 ミズホの高いテンションは保たれたままだ。


「どうするの?」


「まずはユリさんに聞いてみましょう」


 ミズホはスマホを取り出し操作している。すぐに電話は繋がったようだ。


「あ、ミズホです。今お電話よろしいですか、ドーゾ」

 すっかり探偵気取りである。


「今、旦那さんの車を追って・・駅にいるんですけど、見失ってしまいまして。このあたりに旦那さんが行きそうな場所ってありますか? ドーゾ」


 そして「わかりました」と言って電話を切った。

「全くもって心当たりがないそうです」


「尾行って難しいのね……仕方ないわ、ジュース買って帰りましょ」


「やった! ジュースだ!」とハル。


 しかしマミコがハンドルに手を掛けた時、ミズホが出発を制した。


「こういうこともあろうかと、市内の、いわゆるそういうホテルの場所を調べてきたんです。目的地の候補として、いわゆるそういうホテルがあると思いまして」


 ガサガサと後部座席から音がする。振り返ると、ミズホがカバンから何かの紙を取り出して広げているところだった。


「なるほど。行ってみる価値はあるわね。どうせ暇だし」


「どこ行くの? ジュースは?」

 ジュースが何度もお預けになって、当然ハルは不満顔だ。


「言ったでしょ、悪を倒しに行くの!」


 ミズホが取り出したのは市内全域図だった。マミコとミズホは顔を突き合わせて即席の作戦会議を開くことにした。


 ワクワクする。まるで自分が一師団を率いる軍師にでもなった気分だ。それくらい新鮮な経験だった。ここでの判断が戦況の行方を握るカギとなる! さぁ吉と出るか凶と出るか……。


「見てください。いわゆるそういうホテルの場所に印を付けておきました。ここから一番近いのは……」


 ミズホは地図の、中央よりやや右あたりを指差している。現在地から二キロ程度しか離れていない。


「ここね。車はさっき、そこの交差点を右折したの。方向も合ってるわ」


 早くも前を向いたマミコだが、ミズホは慎重だった。


「そうなんですけど……でもそれだと会社の方に少し戻ってしまうんですよ。いわゆるそういう行為をする時って、なるべく職場の近くは選ばないと思うんです」


「一理あるわね……いいわ、二番目に近い場所に行きましょ!」


 そのホテルは十キロ以上も離れているので、車で行けば二十分はかかるだろう。マミコは目的地を頭に焼き付けハンドルを握る。


「さぁ、飛ばすわよぉ~~!!」と叫びアクセルを踏み込んだ。


 とてつもない爽快感が全身を包む。もはや、目的が何であろうと関係なかった。ママ友の旦那の不倫現場を押さえられなくても全然構わない。

 何てったって自分は今、非日常の真っ只中にいるのだから。


「ママ、かっこいい!」


 息子がエールを送ってくれた。

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