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マミコ、非日常(二)

 マミコがファミレスの駐車場出口から様子を窺うと、右手に見える保険会社からちょうど白いフィットが出てくるのが見えた。


「あれね、間に合って良かった」


「ユリさんに聞いたナンバーとも一致しますね」


 後部座席からミズホが言う。マミコ同様、声が弾んでいる。


「さぁ、追跡開始よ!」


 こんなに気持ちが昂るのは何年ぶりだろう。マミコは今、待ち焦がれた非日常の真っ只中にいるのである。


「しゅっぱつしんこー!」


 息子のハルも、意味がわかっていないながらも、友人親子と一緒に車に乗るのは初めてなので嬉しそうだ。


「どこいくのー?」

「悪を倒しに行くのよ!」

「ママすごい!」


 右から左へ、ユリの夫であるキョウヘイの車は通り過ぎた。早速車道に出る。


「すぐ後ろをつけちゃって大丈夫でしょうか?」


 ミズホが心配そうに聞く。


「そんなに目立つ車じゃないし、大丈夫じゃない?」


 マミコの車は黒のハスラーだ。しばらくは真っ直ぐな一車線が続く。車通りも少ない。追跡は楽だった。


「ユリさんの旦那さん、実物はなかなかイケメンだったわね」


「写真映り悪いんですかね」


「西島秀俊と田中圭と要潤を混ぜ合わせて五で割ったみたいな顔だったわ」


「あー……えーと、戦隊モノで言えばブルーってとこでしょうか」


 きっと西島秀俊も田中圭も要潤も知らないのだろうな、とマミコは思った。


 五分ほど走ると、車は商店街を通り抜け、駅のロータリーへと入っていった。マミコの車も続く。


「女よ!!」


 マミコが叫ぶ。停車したキョウヘイの車に駆け寄って来たのは、茶髪の若い女だったのだ。二人は窓越しに何か話している。


「グラマラスな方ですねぇ」


 ミズホの口調はしみじみとしている。

 そして「とりあえず写真撮っときますか」と、パシャパシャと写真を撮り始めた。


「あー……あれは仕方ないわぁ。男が好きそうなルックスしてるもん」


 ついつい嬉しそうな声になるのを抑えつつ、マミコは発車を待った。じっくりと女の顔を観察する。


「井上和香と長澤まさみと萬田久子を一緒くたに煮込んで四で割ったみたいな顔ね」


「あー……えーと、ショムニで言えば二番目の席に座ってる人ってとこでしょうか」


 きっと井上和香も長澤まさみも萬田久子も知らないのだろうな、とマミコは思った。


 女は助手席側に回り、車に乗り込んだ。


「あのひとがわるいやつなの? ハンザイシャ?」


 後ろからハルが言う。四歳児の口から飛び出した重たい単語に、マミコはドキリとした。どこでそんな言葉を覚えてきたのだろう。


「うーん、犯罪ではないと思うけど、とにかく女の人を泣かせちゃダメなのよ」


「ふーん」


「さぁ、出発よ」と、マミコが前を睨んだ時、


「おしっこいきたい!」

 ハルが叫んだ。


「ぼくもおしっこ」

 ユズルも唱和する。「ジュースのみすぎちゃった」


「え、待ってよこんなタイミングで?!」


「もれちゃうよ!」二人の幼児は同時に言った。


 マミコは慌てた。こうなることを恐れて、また教育的配慮から、子ども達は幼稚園に預けておきたかったのに。息子達の通う園は長期休暇中も預かり保育をやっているが、運悪く今日は休みだったのだ。


「私が向こうの公園のトイレに連れて行きますから、マミコさんは車の行く先を見ててください」


 ミズホにしては気の利くことを言って、ハルとユズルを引き連れて車を出た。


 すぐにキョウヘイの車はロータリーを抜け行ってしまった。マミコはどうすることもできず見送るしかなかった。


 ──非日常が逃げていくじゃないの……。


 ミズホ達三人が戻って来た時、マミコの気持ちは萎んだ風船みたいだった。

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