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文明を継ぐ魔女  作者: XType84
第一章 ありふれた青春
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第一章 第五節 社会人一年生

2001年3月中旬。旧帝大の卒業式の日、キャンパスは春の光に包まれていた。


天城香織は、学位記を胸に抱えながら、ゆっくりと校門を歩いた。

研究室の仲間たちが写真を撮り合い、笑い声が響く。


その中で、相沢絢香が香織に近づいた。


「香織、卒業おめでとう。」


「絢香も、おめでとう。」


絢香は微笑む。


「私は大手メーカーに行くわ。研究職で、材料開発の部署。」


「すごいですね。」


「あなたも頑張って。……また会いましょう。」


---


## ** 旅立ちの日 **


卒業式の翌日。

香織は、東亜機工の工場近くで一人暮らしを始めるため、実家を出る準備をしていた。


玄関には、家族が揃っていた。


母は、涙をこらえきれずに言った。


「香織……本当に行っちゃうのね……」


「お母さん、会社が遠いから……」


「分かってるけど……寂しいわ。」


母は香織を抱きしめた。


兄は、段ボールを持ちながら冷やかす。


「一人暮らし? すぐ帰ってくるんじゃないの?」


「帰ってこない!」


「どうだかなぁ。料理できないくせに。」


「できるもん!」


「カップ麺は料理じゃないぞ。」


「兄さんは黙ってて!」


兄妹喧嘩が始まり、母が慌てて止める。


父は、静かに工具箱を差し出した。


「香織。」


「……これ、父さんの?」


「いい道具は一生使える。 技術者なら、自分の道具を持て。」


香織は工具箱を両手で受け取った。


「ありがとう……大切にする。」


父は微笑んだ。


「頑張れ。お前ならできる。」


その言葉は、香織の胸に深く刻まれた。


---

春の朝。


東亜機工の門をくぐった瞬間、

香織は息を飲んだ。


切削油の匂いが鼻をつく。

(ここが……私の働く場所。)



新人研修が始まり、工場長が説明をする。


「生産技術は図面を書く仕事じゃない。

 現場と一緒に汗を流す仕事だ。」


香織は真剣に頷いた。


周囲の新人たちは、緊張した面持ちで工場を見渡している。


その中で、ひそひそ声が聞こえた。


「ねぇ、あの人……坂本主任だよ。」

「怖いって有名。新人は近付くなって言われてる。」

「目つけられたら終わりだぞ……」


香織は、その噂の人物を見た。


短髪で引き締まった体つき。

鋭い目つきだが、どこか静かな雰囲気をまとっている。


香織は、図面を見ながら首をかしげた。


「主任……。」


「何だ。」


「ここなんですが……少し気になって。」


坂本は図面を受け取った。

「……どこが気になる。」


香織は図面を指差す。


「ここの寸法、加工順と合ってません。

 このままだと、段取り替えが増えて……」


主任は図面をじっと見つめた。


周囲の新人たちは固まった。


(やばい……主任を怒らせた……)


しかし――


しばらく沈黙が続いた。


坂本は静かに言った。


「……三十分後、加工ラインへ来い。」


「え?」


「来い。」


その一言で、空気が変わった。


それだけ言って歩き去った。


---

研修が終わる頃には、香織は毎日のように坂本へ質問を持っていった。


「主任、質問です!」


「……図面持ってきて。」


「はい!」


「その治具は使わない。理由は分かるか。」


「えっと……加工精度が……」


「図面だけじゃ分からん。現場へ行くぞ。」


坂本は、香織を現場へ連れていき、

実際の機械を見せながら説明した。


香織は、目を輝かせながらメモを取った。


坂本は、そんな香織を見て思った。


(……本当に、現場が好きなんだな。)


香織は今日も図面を抱えて坂本の後を追った。


だが――


この出会いが、

香織の人生を大きく変えることになるとは、

まだ誰も知らない。


そして――

やがて、その人を失う日が来ることも。


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