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文明を継ぐ魔女  作者: XType84
第一章 ありふれた青春
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第一章 第四節 進むべき道

2001年2月。

就職氷河期の真っ只中。


研究棟の廊下には、面接帰りの学生たちのため息が漂っていた。


「また落ちた……」

「推薦でもダメだった……」

「教授推薦が消えた……」


そんな声が日常になっていた。


天城香織は、研究室の机で履歴書を見つめていた。

推薦か、自由応募か――その二択が頭の中で重くのしかかっていた。


---


## **教授との面談 ――推薦か自由応募か**


午後。

教授室に呼ばれた香織は、緊張しながら椅子に座った。


教授は眼鏡を外し、ゆっくりと口を開いた。


「天城君。君の研究は非常に評価が高い。企業との共同研究にも発展する可能性がある。」


香織は小さく頷く。


「ありがとうございます。」


教授は続けた。


「推薦を使うかどうか、そろそろ決めなさい。」


「推薦を使うなら、後戻りはできん。」

「自由応募なら苦労する。」


香織は俯いた。



教授は香織の迷いを見抜いたように言った。


「君は研究室より工場が好きなんだろう。」


「……分かりますか?」


「長く見ていれば分かる。」


香織は深く息を吸った。


「……少し考えさせてください。」


教授は頷き、面談は終わった。


---


父 ――天城栄二(1940年生)


## **初めての電話 ――父へ相談**


研究棟を出た香織は、携帯電話を取り出した。


(……お父さんに相談してみよう。)


香織は、就職のことで父に電話するのは初めてだった。


「もしもし、父さん?」


『香織か。どうした?』


「就職のことで……少し悩んでて。」


『帰ってこい。夕飯作って待ってる。』


その言葉に、香織の胸が少し軽くなった。


---


母 ――天城佳代(1946年生)

兄 ――天城健一(1971年生)

## **帰省 ――家族の言葉**


夕方。

実家の玄関を開けると、味噌汁の香りが漂ってきた。


母が笑顔で迎える。


「香織、おかえり。ご飯できてるよ。」


食卓には、父、母、そして兄が座っていた。


香織が悩みを話すと、父が箸を置いた。


---


## **父の言葉 ――「会社は肩書きじゃない」**


「俺はメーカーで三十年以上飯を食ってきた。」


「香織。」


「はい。」


「毎日ちゃんと会社へ行きたいと思える方が大事だ。」


香織は目を瞬いた。


父は続ける。


「大企業に入っても、現場に触れられない部署に配属されることもある。

 逆に中堅メーカーの方が、技術者として成長できることもある。」


「……現場に触れたいって思ってる。」


「なら、自分が納得できる会社を選べ。」


父の言葉は、香織の胸にまっすぐ届いた。


---


## **母の言葉 ――「身体だけは壊さないで」**


母は優しく微笑んだ。


「香織、どこへ行ってもいいけど……身体だけは壊さないでね。」


「うん。」


「あなた、研究に夢中になると寝ないでしょう?」


「……気をつけます。」


母の言葉は、香織の心を温かく包んだ。


---


## **兄の言葉 ――「内定取ってから悩め」**


兄は、唐揚げをつまみながら言った。


「香織、内定取ってから悩め。」


「え?」


「悩むのは内定が出てからでいいんだよ。

 今は選り好みしてる場合じゃないだろ。」


「でも……私は現場に――」


「現場とか言う前に、まず内定だろ!」


「兄さんはいつもそういう言い方する!」


「事実だろ!」

「まず飯を食えるようになれ。」


「夢がない!」


「夢だけじゃ飯は食えん!」


兄妹喧嘩が始まり、母が慌てて止める。


父は笑っていた。


「まあまあ、二人とも落ち着け。」


家族団欒の空気が、香織の心を少しずつ軽くしていった。


---


## **天城香織 ――進むべき道を決意する**


夕食後、香織は自室で静かに考えた。



父の言葉。

母の笑顔。

兄のぶっきらぼうな励まし。

どれも、不思議なくらい胸に残っていた。


(私は……現場に触れたい。机の上だけじゃなく、自分の手でものづくりをしたい。)

香織は静かに息を吐く。

――答えは、もう決まっていた。


窓の外では、まだ冷たい二月の風が枝を揺らしている。

春は、まだ遠い。

だが、その春に選んだ道が、香織の人生を大きく変えることになるとは――この時の香織は、まだ知らない。

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