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文明を継ぐ魔女  作者: XType84
第一章 ありふれた青春
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第一章 第三節 見えない悪意

2000年 11月。

研究棟の廊下には、就職活動の不安と研究発表の余韻が混ざり合った空気が漂っていた。


天城香織は、研究室の机に座り、発表会の資料を片付けていた。

研究テーマ発表で勝利したばかりで、胸の奥にはまだ温かい達成感が残っている。


だが――

その背後で、静かに動き始めていた影があった。



藤堂誠一郎(1963年生)。

工学部の助教授で、研究費獲得に異常な執着を持つ男。


白衣の袖を整えながら、香織の発表資料をじっと見つめていた。


「……これは、使える。」


藤堂は小さく呟いた。


香織の研究テーマ――

「多品種少量生産における工程設計と品質管理の最適化」


教授の一人が資料をめくる。

「おお!これは現場が喜ぶぞ」

「派手さはない。しかし十年後も使われる研究だ」

「企業が放っておかん」



だが同時に――

香織の存在が邪魔だった。


(あの女……。あれほどの研究を、あの年齢で仕上げるとは……)



(学生の分際で)

(企業は天城を見る)

(私ではなく)


その事実が、藤堂のプライドを深く傷つけていた。


藤堂は発表資料を一枚ずつめくった。

「……実用化まで見えている」

指先が止まる。


企業名の書かれた共同研究欄だった。

小さく笑う。

「惜しいな」

資料を閉じる音だけが研究室に響いた。


(共同研究から外せば終わる)


藤堂の工作 ――推薦の剥奪と悪評の流布

藤堂はまず、教授陣へ根回しを始めた。


「天城君は、研究室の和を乱す傾向があります。」

「企業は協調性も見ています。」

「研究室として推薦するなら慎重であるべきでしょう。」


教授の一人が眉をひそめた。


「しかし、天城君の研究は評価が高いぞ。」


「ええ、研究は優秀です。しかし……社会性に問題が。」


「確かに彼女は少し不器用だからな……」


さらに藤堂は、共同研究先の企業へも連絡を入れた。


「天城君は、現場との協調が難しいかもしれません。」

「研究室としては、別の学生を推したいと考えています。」


「そうですか……」

「推薦順位が変わるなら仕方ありません」


こうして――香織の推薦は、静かに消されていった。


先輩 ――氷室冴子の忠告

数日後。


研究室でデータ整理をしていると、氷室冴子が近づいてきた。


「香織」


「はい?」


「藤堂には気をつけな」


「え?」


「……あの人、研究費が絡むと人が変わる」



香織は目を瞬いた。


「え? 私の研究なんて、地味ですよ?」


「地味だからいいのよ。企業が欲しがるのは、派手な研究じゃなくて、現場で使える技術。」


氷室は真剣な表情だった。


「気をつけなさい。あの人、研究費のためなら何でもする。」


「……はい。」


香織は頷いたが、心の奥では実感が湧いていなかった。


氷室は続けようとしたが、研究室の電話が鳴り、呼び出されてしまう。


「ごめん、また後で話す。」


氷室は多忙を極めていた。

そのため、この件を深追いすることはできなかった。



天城香織 ――世渡り下手ゆえの無自覚

香織は、氷室の忠告を受けても、深刻には考えていなかった。


(私なんて、狙われるほどの人間じゃないし……)

香織は本気でそう思っていた。


さらに――

香織は大手企業ではなく、

敢えて中堅・中小メーカーを志望していた。


理由は単純。


「現場に触れたいから。」


大企業の研究職は、現場から遠い。香織はそれが嫌だった。


だから、推薦順位が下がったことにも気づかない。


共同研究先へ悪評が流されていることにも気づかない。



研究室の掲示板。

「推薦者決定」

香織は足を止めた。

「あれ……?」

自分の名前がない。

「まあ、まだ他もあるし」

そう呟いて歩き去る。

廊下の奥で藤堂が小さく微笑んだ。


廊下の奥で、それを見届けた()()()()()()()()()()()()



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