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月の砂漠で飛ばされて  作者: 碧衣 奈美


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04.事情説明

 盗賊。

 砂漠を通る人々を襲い、金品を巻き上げ、あげくには命まで奪う、という集団だ。

 物語にもよく出て来るし、現実にもそういうことをする人間がいる、というのは何度も聞いたことがあった。

 男達の腰には、これみよがしに剣が差されている。そのため、余計にシャーリーンの「こいつらは盗賊だ」という想像を確定させていた。

 もう一度見回した限り、ここにいるのはシャーリーンとこの盗賊達。フィーネの姿はなさそうだ。

「あんたこそ、何だ。いきなり空から降ってきておいて」

 耳を押さえた男とは別の、やはりいかつい男が聞き返す。

 みんな、同じような生成りのターバンを巻き、ひげを生やしているので個々の区別がつかない。

 一人目より二人目の方が、ややひげが薄い、というくらいの違いしかない……ように見えた。

「まさか、天女って訳じゃあるまい」

「おしいわね。天女じゃないけど、姫よ」

 言ってから、シャーリーンはノリのよすぎる自分を恨んだ。

「姫だってぇ?」

 そこにいた全員が異口同音に聞き返し、シャーリーンに注目する。

 口を押さえても、もう遅い。はっきりきっぱり、言ってしまったのだから。

「ほう、これは驚いた。どうして一国のお姫様が、こんな夜の砂漠にいらっしゃるんです?」

「あー、あんた、絶対信じてないわね、あたしの話を。あたしは間違いなく、カルシャの二の姫、シャーリーンよっ」

 あたしって……自分で自分をひっぱたきたいくらい大間抜け。盗賊相手に、わざわざ自己紹介してしまうなんて、ありえないわよぉ。

 相手はかまをかけるでもなく、誘導尋問をした訳でもない。

 お姫様がこんな時間、こんな場所になぜいるのか。

 しごくまともで、当然とも言える質問をしただけだ。

 自分のあんまりな馬鹿さ加減に気を取られ、シャーリーンは男達が一瞬顔を見合わせたことに気付かなかった。

「カルシャのシャーリーン?」

 後ろから聞き返され、シャーリーンは振り返った。

 そこに立っていたのは、男達の中で一番若そうな男だ。彼も他の男達と同じようにひげがあるが、顔は他に比べればそんなにいかめしくない。

 目付きは鋭いが、ひげがなければかなりの美形……のような気がする。

 着ているものが周りの男達より少し高価そうな生地なので、恐らく彼が若くしてこの盗賊団の長だと思われた。

 座り込んでいるシャーリーンの横で、長がしゃがんで視線を合わせる。

「そんな姫が、なぜこんな所にいるんだ。さっき砂嵐が通ったが、まさか城まで砂嵐に巻き込まれたのではないだろう」

 さっき、ということは、やはりあの砂嵐に巻き込まれてから、そんなに時間が経ったのではないらしい。気を失っていた時間も、そう長くはなさそうだ。

 いや、そんなことより。

「あ、えーと、それは……」

 一国の姫が、一人で砂漠にいる。

 誰だって「どうして?」と思う。さっきも別の男に尋ねられたが、シャーリーンだって立場が違えば同じことを尋ねるだろう。

 こんな状況は、普通に考えればありえない。

 ちなみに、シャーリーンは嘘をつくのも、ごまかすのもかなり苦手だ。心理ゲームなど、絶対に勝てないタイプである。

 本人はごまかしているつもりでも、端から見ていれば「本当のことを言っていないな」とすぐにわかるのだ。

 ここで嘘をついたりして相手の機嫌を損ね、殺されたりするのはいやなので、シャーリーンは正直に話した。

 見合いがいやで、城出した、という話を。

「ダージェンの王子との見合いがいやで、ね……」

 相手の口調には「そんなことくらいで」という気持ちが、ありありと出ていた。

「な、何よ。あなたは男だから、そんなに大したことじゃないと思うでしょうけどね。女のあたしにしてみれば、すっごく重要な問題よ。押し付けられた相手と、どうして幸せになれるっていうの。どうせ、とんでもない男に決まってるわ」

 やはり、決め付けたままのシャーリーンである。

「決まっている、となぜわかるんだ? それは、自分でそう思っているだけだろう。本当は優しくて、いい男かも知れない」

 後ろで誰かが吹き出したのを、長が一睨みして黙らす。

「押し付けられた、と言うが、それなら立場は相手も同じだろう。それに、政略結婚をさせられる王族や富裕層の子どもなんて、世の中にいくらでもいるぞ。特に珍しいことじゃない」

「う……」

 そういう人達がいる、ということは、シャーリーンも知っている。物語の中にも、現実にもある話だ。

 しかし、お気楽シャーリーンは、そんなことが自分の身に降りかかるなんて、これまで考えたこともなかった。

 まさか自分の父親が、他国との駆け引きのために自分の娘を道具にするなんて、信じられない。三人の子がいる中で、自分が一番甘やかされている、と思っていたから。

「だけど……相手は承知したって聞いたわ。あたしの顔も知らないくせに、簡単に受け入れるなんて、結婚なんてどうでもいいって考えてる証拠じゃない」

「承知したって、何を承知したと聞いたんだ?」

「え……何をって……」

 相手の質問の意味がわからず、シャーリーンはきょとんとする。

「結婚を承知したのか? それとも、ただ見合いをすることを承知しただけか?」

「えーと……」

 そこまで突っ込まれると、シャーリーンは答えられない。

 そんな細かいところまで、侍女達は話していなかった。たぶん、侍女達もそこまでは知らないのだろう。知っていたら、地獄耳かほとんどスパイ。

「それすらも確認しないで城出するとは、かなりそそっかしい性格だな」

「なっ……」

 さっきから、何度言葉に詰まっているだろう。そう言われて、何も反論できないのが悔しい。

 初対面の相手から、どうしてそんなに偉そうなことを言われなくてはならないのだ。父や兄からだって、こんな言い方をされたことはないのに。

「そもそも、政略結婚と決まった訳ではないのだろう? 王としてはそれを望んでいる、というだけで。いやならいやと、なぜ言わない。政略結婚させなければならない程、カルシャは貧しい国ではないだろう。こんなことをしでかすような娘でも、王にすれば一応、かわいい我が子だ。意見を一切聞かずに、いやがることはしないんじゃないのか?」

 所々に気になる言葉があったりするのだが、シャーリーンはやはり反論できなかった。

 確かに、シャーリーンは王に直接交渉をしていない。どうせ、あれこれ理由を付けて、強引に進められる、と思っていたから。

 しかし、自分でそう思い込んだだけ。自分に無断で進められようとしていたから政略結婚だと思ったが、本当は単なる見合い……なのかも知れない。

「侍女まで知っているのに、知っているべきはずの自分だけが知らない。つまり、自分がのけものにされて、拗ねているんだろ?」

「そっ、そんな子どもじゃないもんっ」

 拗ねているのではなく、怒っている……と言いたいところだが、あまりにもはっきり、しかも少し笑いながら断言されてしまい、シャーリーンはそう言い返すのが関の山。

「確かめもせずにこんな行動をする奴は、子どもじゃないのか? 自分にとっての一大事なら、なおさら確実に解決すべき話だろう」

 見事にやりこめられてしまっている。

「他人から見れば、何もしないで逃げているだけだ。これでは、誰も同情なんてしてくれないぞ」

「同情してなんて、言ってないもん」

 ぐうの音も出ないシャーリーンは、完全にふくれてしまった。その様子に、周りの男達はくすくす笑っている。

 だからぁ、最初に言うべきじゃないのってところを怒ってるんだけど……それを言うと、また「拗ねてる」って言われそう。

「それで、手ぶらで砂漠を渡るつもりか?」

 言われて、シャーリーンはどきっとした。いきなり、現実がのしかかってきたことに、血の気が引く。

 フィーネとは、さっきの砂嵐ではぐれてしまったようだ。彼女の安否を確認する術など、シャーリーンにはない。

 それに、今は人のことより自分のことだ。

 水も食料もダクラも、持ち出した何もかもが風に飛ばされてしまって、あるのは自分の身一つ。むしろ、よく命があったものだ。

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