↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の砂漠で飛ばされて  作者: 碧衣 奈美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/16

13.救出

 どこへ逃げればいいのよぉ。

 砂漠の方へ逃げてしまえば、バグラームはきっとダクラに乗って追い駆けて来る。他のテントの方へ行こうと思っても、こっちはこっちで斬り合っていて危ない。この場から逃げても、隠れる所なんてどこにもない。

 シャーリーンはまともに逃げることもできず、しかしバグラームは確実にこちらへ近付いて来る。

 人間がこんなに怖いと思ったことはなかった。

「……リーン……シャーリーン、どこだっ」

 逃げ場に迷い、絶体絶命に思っていた時。

 シャーリーンの名を呼ぶ声がした。

「え……」

 期待しすぎて、幻聴かと思った。でも、確かに聞こえる。ラジェートの声だ。

「ラジェート……ラジェート、助けてっ」

 シャーリーンは、出る限りの声を出した。でも……ちゃんと届いただろうか。怖くて、いつもの半分しか声が出てなかったような気がする。

「けっ、お前のいたテントの奴らが、わざわざここまで取り返しに来たのか。欲深い奴らだ」

「欲深いって、何よっ」

「ふん、返り討ちにしてやる」

 テントの周辺でバグラーム一団と戦っているのは、ラジェート達だったのだ。

 嬉しいと思う反面、シャーリーンは不安だった。

 バグラーム達の方が、人数は多いはず。ラジェート達が何人でここまで来たのか定かではないが、全員で来たとしても相手の方が倍近いのだ。

 人数的にはラジェート達の方が不利だが、戦況はどうなっているのだろう。

「せっかく手に入れた姫だ。そう簡単には渡さんっ」

 バグラームが舌なめずりする。

 その顔を見て、背筋に悪寒が走った。今までの何倍も、鳥肌が立った気がする。

「ラジェート、あたしはここっ」

 早く来て。また捕まってしまう。

 バグラームが、剣を振り上げた。刃がきらりと月光を反射する。

 斬られる! 死なない程度に傷付けて、逃げる気をなくすつもりだわ。

 そう思ったが、シャーリーンは足が震えて逃げることもできず、身体を小さくして目をつぶった。

 すぐ近くで、刀のはねる音がする。びくっとして目を開けると、シャーリーンの目の前にラジェートが立っていて、バグラームの剣を食い止めていた。

「この若造がぁ、邪魔しおって」

 あと少し、というところで横入りされ、バグラームは怒りが頂点に達したような顔になる。

「人の女をさらっておいて、結構な言い草だな」

 ラジェートとしては、売り言葉に買い言葉のつもりで言ったのだろうが、シャーリーンはそのセリフを聞いてどきんとなる。

「男に用はねぇ。殺して身ぐるみ剥いでやるっ」

「できるのならな」

「一つ残らず、盗ってやらぁっ」

 盗賊らしい文句を吐いて、バグラームはラジェートに斬りかかる。

 シャーリーン程でなくとも、ラジェートとバグラームの体格差は大きい。だが、ラジェートはたくみにバグラームの剣をかわし、徐々に追い込んで行く。

「くそぉっ、ふざけおってぇ」

「ふざけるなと言いたいのは、こっちだ」

 突き出してきたバグラームの剣をかわしざま、ラジェートは柄でバグラームの首を打った。

「う……ぐ……」

 呻きながらもバグラームは倒れ、あっけない程簡単に気絶した。図体ばかり、ということか。

「ラジェート!」

 邪魔にならないよう、離れて見守っていたシャーリーン。ラジェートが勝ったと知るや、彼の方へと駆け出した。

 助けに来てくれたのがとにかく嬉しくて、シャーリーンはラジェートに抱き付く。

 気付いてくれるとは思わなかった。気付いたとしても、助けに来てくれるとは思わなかった。

 しかし、彼はここにいる。

「ケガは?」

「ないわ」

 それだけの会話の後、二人は自然にくちびるをかさねていた。

☆☆☆

 人数はバグラーム一団の方が多かったのだが、力ではラジェート達の方が上だった。

 全員が後ろ手に縛られ、その辺に転がされる。意識を取り戻したバグラームがわめいていたが、誰も気に留めない。

「くそぉ、ここはわしのテントだぞ。出て行けっ」

 縛られていない足をばたばたさせて、怒鳴り続ける。

「お前も盗賊なら、食うか食われるかという掟くらいはわかっているだろう。お前は俺に食われたんだ。あきらめろ」

「何をっ、このガキがっ。うがっ……」

 ラジェートは冷たく言い放つと、やかましいバグラームの口をさるぐつわでふさいだ。

 しばらくあきらめきれずにもがいていたバグラームだが、やがて静かになった。あきらめた……と言うより、疲れたらしい。

「どうして、あたしがさらわれたってわかったの?」

「テントを出てから、なかなか戻って来ないからな。外を見た時、ちょうどシャーリーンが連れて行かれるところだった」

「あたしがテントを出たの、知ってたの」

 てっきり、眠っていると思っていた。だから、起こさないよう、静かに出たつもりだったのに。

「こんな場所じゃ、気配が少し変わればすぐにわかる」

 あたしは朝になってラジェートに起こされるまで、何もわかんなかったけど……。

「あの人達は、これからどうするの?」

「カルシャへ連れて行く。役所の前にでも、放り出しておくさ」

「盗賊が盗賊を突き出すの?」

「一組でも盗賊はいない方が、お互いのためだろ」

 ライバルがいない方が仕事もやりやすい、ということか。わかるようなわからないような。

 シャーリーンにすれば、同じ盗賊なら仲間意識で見逃しそうな気がするのだが。何にしろ、盗賊が減るのは世の中のためだ。

 フィーネは目の前で争いが繰り広げられたショックで、意識を失っていた。起こすのもかわいそうなので、そのまま寝かせてある。

「さんざんな夜だったわ」

 まさか城出の最中に、二度も盗賊に遭うとは思わなかった。

 おまけに、手を出されそうにまでなって。十七年の人生で、一番の危機だと言える。こうして無事でいられるのは、ほとんど奇跡だ。

「まったく。えらい女を拾ったものだ」

「う……好きでさらわれたんじゃないもん」

 シャーリーンが拗ねた口調で言うと、ラジェートは笑った。

「わかってる。少し休んでおけ。夜明けまでは、まだ時間があるから」

「うん。ラジェート達は?」

「こいつらの始末をしたら、休む」

「始末って……殺すのっ?」

「さっき、役所の前に突き出すって言っただろ」

「あ……そっか」

「テントの中へ入れてやるんだよ。明け方は冷えるから。どうせ捕まれば首は飛ぶだろうが、それまではな。最後の情けだ」

 シャーリーンは、フィーネが休んでいるテントへ入る。

 外から聞こえるざわめきはうるさいし、色々ありすぎて頭が興奮して眠れそうにない……と思ったが、横になるとすぐに意識が遠のいた。

☆☆☆

 次の日は、大所帯での砂漠移動となった。

 ラジェート達が六人と、シャーリーンが加わって七人。バグラーム一団は全部で十三人いて、そこにフィーネが加わり十四人。

 結局、全部で二十一人にもなってしまった。大盗賊団か隊商だ。

 シャーリーンが眠っている間に、センキス達が自分達のテントを片付けてこちらへ戻って来ていた。朝になって軽く食事を済ますと、出発する。

 バグラーム一団は歩かせ、彼らのダクラにはシャーリーンとフィーネが乗せられた。

 みんなに悪いから、とシャーリーンは辞退したのだが、せっかく乗れるダクラがいるのだから、と言われてありがたく乗ることにする。

 正直なところ、歩かなくていいのはものすごく、ものすごーくありがたい。足のマメはまだ痛いし、今日も身体の節々が筋肉痛で悲鳴をあげているから。

「姫様、あの方達はどういうお方なのです?」

 シャーリーンの後ろに乗っていたフィーネが、そっと尋ねた。

 夜は気を失っていたし、朝になれば食事をして慌ただしく出発となって、彼らのことがわからないのだ。

 それでも、助けてもらったようだ、ということはわかっている。

「ラジェート率いる盗賊よ。あたしは、彼らに助けてもらったの。別にこき使われたりしなかったし、いい人達よ」

 何やかんやとさせられたものの、あれは自発的に手伝ったこと。こき使われた、と言ったりしたら、文句を言われそうだ。

 それに、いい人達には違いない。これは本音だ。

「私達、盗賊に縁がありますねぇ」

「はは……そうね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000 (バナー作成:相内 充希さま) (バナークリックで「満月電車」に飛びます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。