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月の砂漠で飛ばされて  作者: 碧衣 奈美


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11.再会できたものの

 自信満々に言われたが、シャーリーンはそんな盗賊一味など知らない。

 バグラーム一味に限らず、他にどんな名前の盗賊団が存在しているかも知らないのだ。

 砂漠には盗賊がいるらしい、という、ふわっとした情報しかない。

「つまり、あなたは首領じゃないのね。だったら、偉そうにしてるんじゃないわよ」

 まるで「自分が一番偉い」と言わんばかりの態度。見ていて腹が立つ。

「何だと、この小娘がっ。自分がどういう立場か、わかってんのかっ」

「あなた達の顔を見てたら、何となくわかるわよっ」

 こうして会話をしていても、相手が粗悪品という感じがして仕方ない。シャーリーンは、しゃべるのがいやになってきた。

 自分が非常に不利な立場にいることは、これでも一応わかっている。でも、この男達を相手に恐がるのは、自分がとんでもなく臆病者に思えてしまう。

「姫様っ」

 いきなり、女の声でそう呼ばれた。

「……え?」

 シャーリーンが呼ばれた方を向くと、そこには見覚えのある少女の姿がある。

「フィーネ? あなた、無事だったのねっ」

 そこにいたのは、間違いなくフィーネだ。

 二日前の夜に砂嵐に巻き込まれ、はぐれてしまったシャーリーンの侍女。

 こんな状況で「無事」とは言えないのだろうが、とにかく生きていた。傷らしきものも、そこから見ている限りなさそうだ。

 最悪の場合、もう駄目かも知れないと思っていただけに、再会できて嬉しかった。

 ただ、この再会の場面は、おせじにも良い状況とは言えない。

「姫様だと? ほう、お前は姫だというのか」

 フィーネの後ろから、これまた身体の大きい、ひげ面の男が現れた。顔がひげで埋まっているようにすら見える。

 わずかに見える肌は脂ぎってるようで、あまり……いや、可能な限りお近付きになりたくないタイプだ。

 暗いことと、そのひげのせいでわかりにくいが、ザドーア王とそんなに年齢は違わないと思われる。この男が、首領のバグラームという男だろう。

 見た目のいやらしさも体格も、シャーリーンをさらってきた男とは段違いだ。

 フィーネは思わず口走ってしまって、まずいという表情になった。

 彼女もずっと、シャーリーンの安否を気にしていたのだ。それが無事な姿を見たためについ、というところだろう。

 フィーネを責められないが、今の状況ではちょっとよくない。

「どこの姫だ? んん?」

 汚い顔を近付けないでほしい、と本気でシャーリーンは思った。

 そんな気持ちを知ってか知らずか、バグラームはどんどん近付く。シャーリーンが答えようとしないのを見ると、短剣を出してさりげなくそれを近付ける。

「きれいな顔に、傷を付けたくなかろう? どこの姫だ?」

 へらへらしながら、バグラームは脅迫してくる。刃を向けられると、シャーリーンもさすがに怖い。

「カルシャの……シャーリーン」

 睨むようにして答える。

「ほっほう、カルシャの姫か。こんな所でお会いできるとは、夢にも思わなんだ。一昨日はカルシャの使用人を拾ったが、まさか次に姫が拾えるとはな。明日か明後日には、王も拾えるのではなかろうかな」

 そう言って、バグラームはぐひゃぐひゃと下品に笑った。

「わしらは、ラウバの近くでこの娘を拾った。ちょうど、手伝いがほしくてな。ラウバとカルシャで仕事をする時に、この娘にわしらの世話をさせた。なかなか働き物だな、この娘は。姫はいい使用人を持ってらっしゃる」

 ラウバは、カルシャの隣国だ。シャーリーンはダージェン方向へ飛ばされたが、フィーネは逆方向へ飛ばされていたということになる。

 彼らはたまたまフィーネが持っていたシャーリーンの宝石を取り上げ、ちょうどいいからとフィーネをこき使っていた。

 これまでカルシャやその近辺の国々で悪行を重ねていたが、手配書も出回ってきたのでそろそろ潮時、とばかりに砂漠を渡って逃げるところだったのだ。

「フィーネにひどいこと、しなかったでしょうね。あなた達にも娘がいれば、この子くらいの年齢でしょ」

「そうかも知れんなぁ。だが、娘や息子がいるかどうか、わからんからなぁ」

 バグラームはまた、ぐひゃぐひゃと下品に笑う。

 これまでに手を出した女に子どもができていても、知らん顔をしていた、ということだろう。

「で、あたしにも、あなた達の世話をさせようって訳?」

 精一杯、偉そうに言ってやる。悪意に満ちたバグラームのしゃべり方が、シャーリーンはどうも気に食わない。

 この男を相手にしていると、空威張りでも偉そうにしてやりたくなる。こんな男に負けるのは、プライドが許さないような気がしてくるのだ。

「あなた達? いやぁ、姫にそんな大勢の相手はさせられんな。姫の相手は、わしだけでいい」

 げっ。何を言ってんのよ、このアブラ症親父は。それって、つまり……。

「上玉を連れて来たな。後で褒美をやるから、楽しみに待ってろ」

 バグラームはシャーリーンをさらってきた男にそう言うと、彼女の腕を掴んだ。

「いやぁっ、何するのよ、放しなさいっ」

 必死にバグラームの手から逃れようとするシャーリーンだが、男の力にかなうはずがない。

 だいたいが、縦も横もシャーリーンの倍近くあるのだ。魔法でもなければ、この男を突き飛ばすことは無理な話。

 たとえ手元に剣があっても、うまくやらないと折れてしまうような気がする。

「元気な姫だ。それこそ、楽しみがいがあるというもの」

 シャーリーンの必死の抵抗も、子どもが大人に抵抗するくらいのものでしかない。力の差がありすぎる。

 バグラームは、シャーリーンをいとも軽々と抱き上げた。

「いやだってば。降ろしてよ。降ろしなさいっ!」

「姫様……」

 この状態だと、シャーリーンは足をばたばたさせるのが関の山。どうしても、バグラームの手から逃れられない。

 フィーネはへらへら笑う他の男達に囲まれ、助けたくとも身動きがとれないでいる。動けたとしても、シャーリーンと同じで突き飛ばすこともできない。

「そうやって暴れられるのも、今のうちだ。動きたくとも、動けなくなるからな」

 バグラームは高笑いしながら、シャーリーンを自分のテントへ連れて行った。

☆☆☆

 首領専用のテントの中。

 シャーリーンは、やっとバグラームの手から降ろされた。逃げようにも、入口にバグラームが仁王立ちしているので、外へは出られない。

 ランタンの火がゆらゆらと揺れて、テントの壁に映る。

 ラジェートのテントの中も、こんな感じでほんやりした明るさだったが、一緒にいる人間が変わると、こうも雰囲気が違ってくるものなのか。

 ひげの中の口が、にやにやと笑っている。目もこれ以上ないという程に、いやらしくなって。シャーリーンは鳥肌が立って、仕方がない。

 その顔を睨みながらシャーリーンは、何か武器になるものはないか、探した。

 剣の類は、見当たらない。果物が少し置かれているだけで、あとは寝具のみ。何もない所だ。首領専用とは言え、テントの中だからこんなものだろう。

 バグラームの懐にはさっきシャーリーンを脅した短剣があるが、あれを取るには近付かなくてはならない。近付けば抱きすくめられて、身動きが取れなくなるだろう。そんなことでは困る。

 本当にそうなったら、完全に貞操の危機におちいるだろう。

「さぁ、姫。ゆっくりと話でもしようではないか」

 言葉遣いが少々変わったところで、品格の低さは隠せないわよっ。

 そうは思ったが、とりあえずいきなり押し倒されたりしなかったので、少しほっとした。

 シャーリーンが姫と聞いて、紳士ごっこでもしたいのだろうか。

「どういう話がお好みかしら。政治? 経済? それとも、自然力学かしら」

 本当にそういう話をされたら、シャーリーンはついていけない自信がある。勉強しているふりをして、違うことを考えてる時の方が多いのだから。

 でも、バグラームがそんな話をするとは思えない。だから、わざと難しい話題にしてやった。シャーリーンの、ささやかないやがらせである。

「それもよいがな。せっかくの月夜だ。もっと色気のある話をしようではないか」

 あたしはあんたみたいなのと、そんな話はしたくないわよっ。

 シャーリーンは心の中で、思いっ切り舌を出した。

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