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―――聖女ナタリアが帰郷する。
そうか、もう10年が経過したのか。
時の流れとは速いものであるな、と考えながら男爵は帰郷の報せを受け取った。
本物のナタリアはロックハート伯爵家に輿入れし、この10年の間に4人の子宝に恵まれた。
ナタリアの子供達―――男爵の孫達は皆床に伏せがちだ。
替わりとはいえ聖女が帰郷すれば、それもまた癒えるだろう。
慣例に従えば、聖女が帰郷から3代苦労しない王家からの支援も得られるのだ、何の問題も無いと男爵は考えていた。
暫くすると、男爵領に聖女が入ったとの一報も入る。
「―――王太子殿下が?」
「はい、聖女ナタリア様は王太子殿下に伴われて療養なさっていらっしゃる、と...」
地味で目立たず、それでいて女の身の上で領地経営に口を挟む祖母に似た厄介な次女を、男爵は嫌っていた。
だからこそ、ナタリアが次女に聖女の役目を代わって欲しい、と言った時には男爵はその提案をすんなり受け入れた。
聖女の巡礼の旅が過酷を極める事はこの国に住む誰もが知っている、可愛いナタリアに聖女と言う、名前だけは立派な苦労しかない人生を遅らせる訳にはいかないと思った。
すり替えの後、ナタリアとして次女が旅立ったのと入れ替わりにナタリアは次女として、ロックハート伯爵家に嫁いだ。
「髪色と目の色はどうしたのか」
「ルカ嬢は薬草学に長けていた筈であるのに、初歩的な調合をミスし、現場で混乱が起きている」
「帳簿を読む事も出来ないとは、男爵家ではどの様な教育をしているのか」
様々な伯爵家からの苦情も、あの娘が帰って来たのであれば問題ない。
あの日と同じ様に、ナタリアと次女をすり替えれば良いのだ。
婚家で肩身の狭い思いをしていると嘆くナタリアを救うにはその方法しかない。
ナタリアは男爵家に戻り、元聖女として豊かな生活が約束され、あの娘はロックハート伯爵家で肩書きだけの伯爵夫人としての生活をすればいい。
男爵は本気でそう考えていた。
王太子が領地に来ている、と言う事は、元聖女に対する謝礼の話をするつもりなのであろう、と男爵はほくそ笑んでいた。
男爵は夫人と、たまたま帰郷していた本物のナタリアを連れて、聖女ナタリアの療養先に意気揚々と向かうのだった。




