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ロックハート伯爵家は、薬草学に精通していると評判の、ベクマンベトフ男爵家の次女に婚約を打診していた。


伯爵家から見れば取るに足らない、不毛の大地を領地とする貧乏男爵家ではあるが、先代の聖女カトリーナから次代の聖女生誕の血筋であると指名を受けている。


そうして、10数年前、先代カトリーナの指名の通りに、夏の終わりにピンクブロンドに青い瞳を持つ娘が生まれた。


貴族出身の聖女の誕生は実に数百年ぶりの出来事であり、聖女信仰の厚い伯爵家は聖女が帰還した折に苦労の無いように妹を伯爵家に嫁がせる事で、慣例として王家が保証する報酬の他に伯爵家からのサポートを行うと決めていた。


リィンハルトは男爵家から贈られてきた姿絵と、月に一度男爵令嬢から贈られてくる手紙を宝物の様に大切に机の引き出しに入れ、手紙は何度も何度も、繰り返し読み返した。


―――しかし、妻として伯爵家に輿入れして来たのは、巡礼に旅立った筈のナタリアだった。


困惑するリィンハルトや伯爵家の面々を気にする事もなく、ナタリアは妹の名前を名乗り、押し通す様に伯爵夫人の座に就いたのだった。


何か、事情があるのかもしれない。


例えば、手紙から受けるルカの印象は心から領民の為を思い行動しようとする娘であるが、実際は姉から聖女の座を奪う心の卑しい娘なのかもしれない。


そう考えたリィンハルトは男爵家に探りを入れた。


だが、明らかになったのは生家で不遇な扱いを受け、


「過酷だと分かりきっている巡礼の旅など御免こうむる」


と、姉に聖女になる様に強要されたルカの姿だった。


自分とルカの婚約は政略であるし、傍から見れば伯爵家は聖女のおこぼれに預かろうとするハイエナの様な存在かもしれない。


それでも、ひとりの人間の人生を預かる以上、リィンハルトはルカを誰よりも幸せな妻にするつもりでいた。


「髪色と瞳の色はどうしたのか」


「成長で変質する場合もございましょう」


「薬草学に長けている筈の娘が、簡単な調合を間違えて大変な騒ぎとなった」


「薬草学に長けている、とはいえ、所詮は素人の独学でございますので」


ナタリアは男爵家は、そう言って逃げていた。


「...そう、ですか...」


お忍びで来訪したオリバーからルカの現状を聞いたリィンハルトは、直ぐにでもルカを助け出したいと考えた。


しかし、仮にも王家と教会が


「この娘はナタリア・ベクマンベトフ男爵令嬢である」


と判断し、巡礼の旅が行われている現在(いま)、事実を公にすれば混乱は免れない。


男爵家の取り潰しだけ、では済まないのだ。


王家と教会の信用問題に関わる、となれば、巡礼の旅が完了するまで手出しは出来ないのである。

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