2
「ミーシャ・バートン。貴女を今代の聖女付きの護衛兼侍女として任命します」
教会の祭壇から、先代の聖女であるカトリーナの声が厳かに響く。
60年前、カトリーナが、カトリーナの先代聖女リリーナがそう告げるのを見届けた時と同じ様に。
「その役目、確かにお引き受け致します」
ミーシャは淡々と言葉を返す。
今回の巡礼も、滞りなく巡るだろう。
各地の魔素の澱みを、不在の精霊の王に代わり聖女が循環させる事が使命であると神官長は言っていた。
精霊とて、不死の存在ではない。
精霊の不在を代行し、世界を循環させる役割を担うのが聖女であり、聖女に任命される事は光栄な事なのである、とカトリーナは幼い時から聞いていた。
干魃で両親を喪い、魔物に喰われるところだったカトリーナを救い出した教会に対して報いる事が出来るのであれば喜んで巡礼の旅に出よう、とカトリーナは聖女の任命を受け入れた。
聖女の役割はまず、巡礼の先の土地を知る事。
地脈にある魔素の澱みを探り、祈りを通じてそれを解消する。
10年それを繰り返す。
聖力を高める為、その間決して肉や魚を食らってはならない。怒りを覚えてはならない。清らかな身の上でなくてはならない...
教会で育ったカトリーナには対して苦では無かったが、仮にも貴族令嬢であるナタリアは大丈夫だろうかと不安に思ったが、引き継ぎに必要な知識を語り聞かせる為に共に過ごした10日の中で、ナタリアならば問題無いであろう、とカトリーナは感じ取った。
それと同時に、―――ほんの少し、不安に感じた。
ナタリアがあまりにも、私欲が無かったから。
「ミーシャ。貴女はナタリアをどう思うかしら」
「貴族出身の聖女、ともなれば多少身構えていました。
...ですが、その...」
ミーシャも、ナタリアがあまりにも私欲の無い人間である事に戸惑っている様子であった。
旅立ちの際に「これはお母さんの形見なの」とロザリオを握りしめて泣いたリリーナとも、教会の友人達との別れを惜しんだカトリーナとも違い、ただ淡々と
「行ってまいります」
とだけ述べたナタリア。
ナタリアの家族である男爵夫妻も、妹も、ナタリアを見送る事も無かった。
「―――願わくは、旅路の果てには笑える様になって欲しいわ」
カトリーナは静かにそう言って、旅立つナタリアとミーシャの姿を見送ったのだった。




