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本物のルカが僅かな間、人間の世界に留まる為には両親が真名を呼ばなければならない。
自分では、その役目を担う事は出来ないのか、とリィンハルトはナタリアの産み落とした子供達に問うた。
「リィンハルト様は、一度でも我等の王の御名を口にした事があるのでしょうか?」
返されて、愕然とする。
リィンハルトはルカと対面したやり取りは全て書面の上であり、直接対面して名を呼んだ事は一度として無かった。
それどころか、やり取りの証明である私的な手紙ですら、全て宛名は
「ベクマンベトフ男爵令嬢様」
と記していた。手紙のなかで固有名詞として語りかける時には
「聖女の妹君」
と語りかけていた。
これでは、ルカの名を正しく呼ぶ存在が王太子殿下と両親だけである、とナタリアの産み落とした子供達―――精霊の分御霊がそう判断するのは無理も無い事であった。
ロックハート伯爵家に伝わる、嫁入り前の令嬢の名を妄りに口にしてはならない、と言う風習をこれ程悔やんだ事はなかった。
今代の聖女であり、巡礼の旅に出た娘はナタリアである、とベクマンベトフ男爵夫妻は口にしたと言う。
10年の間に、聖女のすり替えを王家と教会が把握している事を知らないとはいえ、最後までナタリアの我儘を優先するとは、とリィンハルトは落胆した。
精霊の王となったルカの髪は美しいブルネットに変わり、瞳は抜けるような青空を切り取った様な色へと変化した。
ルカを人として留めていたのは、領民への深い愛情であると言う。
「それならば、せめて。彼女の愛した世界を護ると誓おう」
リィンハルトは聖女のすり替えによって弾劾され失墜したベクマンベトフ男爵家に代わり、不毛の大地と呼ばれたベクマンベトフ領の繁栄に尽力するのであった。




