愛しい人と歩む嘘つきな私の話
先輩との契約を行い、やるべき事が決まった私はその後、先輩から事の発端とこれからの話を聞いた。
話を聞いた私は、思っていた以上の大事に心底驚いた。
まず、先輩の言っていた大戦。これがヤバすぎる。
要は言葉通り次元の違う存在、神や魔王等という上位存在と戦わなければいけないということだ。しかも相手は一体でもヤバいのに二陣営とも全戦力で、しかもそれが同時に襲いかかってくると言うのだから現実的に考えればそれを抑えるなんて……ましてや制圧するなんて不可能。
「他に協力者は募らないんですか?」
「無理だね。そもそもこの大戦自体には僕一人で赴く予定だ。君にはそれまでの魔法理論の研究やその他の雑用を頼むつもりだ。まぁ、助手のようなものだね」
魔力について書かれた基礎レベルの教本のページを捲りながら先輩はなんて事ないように言うが、私はその考えに理解ができない。
「先輩一人でなんて不可能です。相手は上位存在、しかも向こうは軍隊で来るんですよ?」
「仕方がないことだよ。世界様を通して得た情報では今の人類にはそこに対応出来るほどの才能を持った者はいないからね。足手まといは寧ろ余計な事態を招きかねない」
「それなら私だって」
「君に才能があるのは否定しないが、そこまでのものじゃない」
そこまでのものじゃない、あっさりと引かれる一線に自分の無力さを叩きつけられる。
悔しくて拳を握りすぎたせいで爪に血が滲む。
わかっている、先輩と私では才能の差は比べられるものではない。しかも素で圧倒的な差があるのに、先輩は今、世界から魔力を無限に供給されている。
間違いなく神々や魔王と戦えるのは先輩しかいない。
ただ理解はできていても納得できない。もしその大戦で先輩が死んでしまうようなことになれば…………
「心配はいらない、ある程度勝率の高い計画は既にいくつか思いついてる。君との契約は必ず守る」
先輩に私の姿がどう見えているか分からないけど、先輩の勘違いもあって的外れな慰めをされる。
その勘違いこそが私の真の狙いの鍵にもなるため、誤解をとくことができないのが歯がゆく感じる。
「………………わかりました。それじゃあまずは何からすればいいですか」
「そうだね、まずは…………」
それからは毎日毎日、怒涛のような日々を過ごしていくこととなった。
先輩からは、定期的に超難関な魔法陣の解析・再構築を頼まれたり、明日から一年以内に二十カ国を回るから急いで飛行魔法を習得してくれと言われ、何とか一日で習得した飛行魔法で世界中を飛び回ったり。
しかし、そんな日々も愛しい先輩と過ごせる日々だと思えば幸せだった。
先輩は基本的に常に淡々としていて、全ての行動の最善を選び動いていた。
だけどそんな先輩にもたまに荒れる日が存在する。
それは国や街、人を殺した日。
とある街では、世界の想定より魔族の洗脳の力が強く成人している人間全てを殺さなければいけない時があった。
別の街では、神によって破壊不可能な経典を降ろされてしまいその土地に住まう生き物を全て輪廻の輪に帰らないよう呪い殺した後、その土地に誰も入ることができないように死の大地へと変えることになった。
その他にも神々や魔族、たまに腹立たしい事に世界の不始末のせいによって先輩は鏖殺を繰り返していた。
先輩そんな事があった後、毎度数日ほど荒れる。
荒れると言っても私にイラつきをぶつけたりだとか地形を破壊したりといったものではなく、自室や拠点近くの森の深くで荒れ狂う自分の魔力の中で血反吐を吐いていた。…………要は、自傷を繰り返していた。
一応その行為も、潜在魔力を高める為にはなっているらしいみたいだが、あれは明らかに過剰だった。
私にあたって先輩が少しでも楽になるのなら、私の身体くらい自由に使って欲しい……そんな言葉は、初めて荒れる先輩の姿を扉の隙間から見て飲み込んだ。
自身の欲望のままにそんなことを言えば、先輩はきっと二度と私にも荒れる姿を見せないようにしてしまうだろう。
そんなことをしてしまえば……あれだけ荒れてしまうほど、どうにかなりそうな感情を隠し抑えてしまったら、きっと先輩は十年と経たずに壊れてしまう。
先輩のしたことは未来の世界の安寧を考えれば必要な犠牲だった。私なら仕方がないと割り切れることも…先輩にはできない。いや、きっと先輩以外の誰もが同じ状況になったのならいつか慣れて何も感じなくなる。しかし先輩の場合は強靭な精神力が理性を失わせてくれない。だから先輩は全てが終わるまで、否、全てが終わっても苦しむのだろう。
ただ、そんな日々を過ごしていくうちにわかった事と、嬉しい誤算があった。
まず一つ、世界というのはそこまで万能ではない。
と言うのも、世界から渡された情報・計画これに穴が多い。先輩は過剰に世界を崇拝してしまって盲目的になっているが、ここ数年で立てられた計画のうち世界から得た情報の有用性は二割にも満たない。ポツポツと指針だけを指して具体的な計画はほとんど先輩が考えている。しかも、先輩が荒れていたある日、いつものように先輩の身体にまとわりついていた霞がブレたように見えた後、よく見ると薄くなっていたのだ。
つまり、あの霞は魔力によって干渉ができるということだ。無論、先輩のあの莫大な魔力量によってあの程度の干渉率と考えるとなかなか現実的には難しい。けど、それを何とかするのが魔法理論だ。不可能では無いとわかっただけで上々すぎる。
そして二つ目、これには私も驚いたけど世界中に点在する各国の上層部は神々や魔族、世界のことについて把握をしていた。しかも、もう何百年も前から上位者についての研究を始めていたらしい。
しかも、研究成果として世界の目を欺く魔法を既に完成させていて、私も使うことが出来た事。
あの時はどれだけ嬉しかったことか。
その魔法のお陰で、私は各国と常に連絡を取りながら必要な情報を手に入れることが出来た。
もちろんその対価に私は霞の残滓を手に入れ送ったり、先輩の計画を話したりもした。
もちろん、私に都合がいいように多少の改竄はしておいたけど。
そして最後の三つ目、これはまだ推測の域を出ない程度の確証しかないけれど、私はほぼ確信している。
恐らく、神々も魔王軍もいざ戦うとなればきっと今の先輩には手も足も出ず滅びてしまうはずだ。
これは別に神々や魔王軍を侮っている訳ではなく、それだけ先輩の持つ力は異常だった。
時折現れる神の使いや悪魔から計測された魔力では、いくら集まったところで先輩には届かない。もちろんあれらが末端も末端であることは承知しているけど、それを含めても先輩を脅かすには足りない。
それらの情報を纏め、私は各国と連携し表向きの計画を立てた。そして各国には意図して伝えなかった情報を使い、魔法で脳を弄り不眠不休で私だけの計画を練り続けた。
だけど、それももう終わる。
幼かった私の身体は成長し、先輩より小さかった私の身長は今では頭ひとつ分先輩より高く、女性らしい部分はより強調されている。
燃える街の見える丘で、先輩と契約してからもう十年が立っていた。
明日、先輩は神々と魔王軍の戦地へ赴く。
だと言うのに、椅子に座って本を読む先輩の表情からは微塵も緊張は見えない。
むしろ、いつもより穏やかに見えるくらいだ。
自分の人生が終わることに安堵しているのでしょうね。
だけどごめんさい、先輩。
そうはさせてあげられないの。
きっと先輩は明日、自身の想定以上の接戦を強いられることになるわ。
だって私がそうなるように仕組んだから。
きっと貴方は死にものぐるいで、明日始まるの聖戦を制すでしょう。そして、全てが終わった頃あなたの体はボロボロになってると思うわ。
だけど、ごめんなさい
その体を癒すための魔力は貴方に届かないの
私がそうなるように道を作ったから
明日、私は今まで関わってきた全ての人を欺く。
私に協力してくれた国も、人も、先輩も……
この世に存在する生き物全てが、私を嫌うだろう。だけど、そんなことはどうだって良かった。
貴方は私に殺されることを望んでいる。
あぁ…なんて残酷で自分勝手で…………優しい人。
だけど安心してください、この約束だけは守ります。
先輩の望み通り私が、先輩を殺してあげますよ…………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………でも、その後のことは約束してませんよね?
「先輩……愛してます。」




