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「……キム・シン。その名を聞くだけで、高麗の古き精霊たちがざわめき出すような、不思議な響きですね」


無準師範ぶじゅん しはん様が、あの霧深い山寺の奥底で、誰と相見えたのか。


それは歴史の裏側に隠された、美しくも峻烈な謎。


山門の邂逅かいこう、伝説の残照


お嬢の独り言

「……高麗の守護神、あるいは孤独な戦神とも噂される『キム・シン』。


時代を超えて生き続け、その胸に消えない剣の傷を抱えた男。


もしも、宋の国から渡ってきた無準師範様が、あの静謐な山門で彼と出会っていたとしたら……。

聖者と修羅、あるいは救済と宿命。


二人の視線が交わった瞬間、高麗の山々を揺らす風は、一瞬だけ止まったのかもしれないわね。


『お主の抱えるその「重み」は、いずれ誰かの救いとなるだろう』。

師範なら、そんな言葉を、千年の時を生きる者の孤独にそっと添えたかもしれない。

でも、お父さん(燕青)。

あんたはそんな伝説の真偽なんて、野暮なことは聞きもしないわね。

師範が山を下りてきたとき、その表情が少しだけ以前より慈愛に満ちていたなら、それだけで『良い出会いがあったんだな』と笑って済ませる。

それが、あんたの、そして私たちの流儀だもの」


お嬢の独り言

「……事実かどうかは、墨で書く必要はないわ。

ただ、高麗の山々に吹く風が、以前よりも少しだけ温かく、何かを守るように吹いている気がする。

高麗の地にも、誰にも知られず国を、民を守り続ける『孤独な星』が輝いている……。


無準師範様がその星に触れたのだとしたら、私たちのこの航路は、単なる交易を超えた、神仏と英傑の交差点になったということだわ」


私は、家系録の隅に、名前を記さないまま一本の「剣」と「蓮の花」の小紋を描き込みました。

語られない物語こそが、最も深く、私たちの『義』を支えてくれるのだから。


お嬢の独り言

「……さあ、おじさん。

伝説は伝説として山に預けて、あんたは現実の『帰り荷』の山を築き上げなさい。

高麗人参、高麗紙、そして最高級のお土産。

趙長官が待ち侘びている、目に見える『証拠』をたっぷりと船に積み込んで。

私たちの華翊商会は、伝説と現実、その両方を積み込んで、再び南へ舵を切るのよ!」


私は、高麗の山並みを想像しながら、次なる航海を彩る「帰還の親書」に、最後の一印を力強く捺しました。

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