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無事下船許可も得た後、無準師範様が船を降りる際、おじさん(燕青)に向かって静かに合掌されたそのお姿は、荒くれ者の武人たちが集う港にあって、一筋の清らかな光のようでした。
聖者の行進、山寺の静寂へ
お嬢の独り言
「……無準師範。
宋の国でも高潔な僧として知られるあの方が、一介の商会の用心棒……いいえ、私のお父さんに対して、最大級の礼を尽くしてくださった。
『燕青殿。貴殿のその真っ黒に焼けた腕が、どれほどの命を救い、どれほどの志を運んできたか、仏様はすべてお見通しです。この荒波を越えられたのは、貴殿の「義」という名の帆があったからこそ』。
おじさんは、照れくさそうに頭を掻きながらも、その言葉を真っ直ぐに受け止めたはず。
武器を振るう腕も、筆を握る指先も、誰かのために使われるのであれば、それは等しく尊い修行なのだと、師範は教えてくださったのね」
師範は、公孫勝様のお弟子さん数名に守られながら、高麗の険しい山々に抱かれた古刹へと旅立たれました。その足取りは、まるで雲が流れるように軽やかで、迷いがありません。
お嬢の独り言
「……日ノ本へ渡る前の、束の間の滞在。
でも、師範が高麗の山寺に入ったという事実は、現地の僧侶や知識人たちの間に瞬く間に広がるわ。
それは、私たち『華翊商会』が、単なる金の亡者ではなく、高僧の歩みを支える徳ある集団だという、最高の証明書になるのよ。
おじさん。あんたが師範の荷物を肩に担いで、山門まで見送ったその背中、誇りに思うわ」
山寺の鐘の音が、遠く壁欄渡の港まで響いてくる。
それは、新しい交易の始まりを祝う鐘の音であり、同時に、私たちの「義」が異国の神仏にまで届いた合図でもありました。
お嬢の独り言
「……よし。趙長官への報告書には、師範が無事に山寺へ入られたことを真っ先に記しましょう。
徳を重んじる長官のこと、これで私たちの商会への信頼は、揺るぎないものになるはず。
さあ、おじさん。
聖者を見送った後は、いよいよ泥臭い『商い』の真剣勝負ね。
最高級の高麗人参と高麗紙、最高の帰り荷を揃えてちょうだい!」
私は、師範の歩まれた静かな道に想いを馳せながら、次なる商談に目を向けた、




