表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/154

89

高麗の玄関口、壁欄渡へくらんとを目前にして、海の色がどす黒く変わった。


おじさんの乗る華翊商会の本船を、獲物を狙う野犬の群れのように、数多の小舟が取り囲む。


碧海へきかいの洗礼。


お嬢の独り言

「……おじさん、試されているわね。

高麗の海賊たちは、宋の役人の許可証なんて紙切れ一枚、鼻も引っ掛けない。


彼らが欲しがっているのは、船底に眠るお宝、極上の青磁と、そして『燕青えんせい』という男が、この海を渡るに相応しい器かどうかという証拠よ。


囲まれた小舟からは、獣のような咆哮が上がり、錆びた鉤爪が船べりにかけられようとしている。

でも、おじさんの顔を見ればわかるわ。


その真っ黒に焼けた顔で、不敵に笑いながら、腰の短棒たんぼうを軽く叩いているはず。


『面白い、高麗の挨拶は随分と威勢がいいじゃねえか』ってね」


おじさんが動くより早く、甲板に静かに佇んでいた公孫勝様のお弟子さんたちが、数珠を握り直した。


お嬢の独り言

「……公孫勝様の道術。

弟子たちが呪文を唱え、印を結ぶと、凪いでいた海面に奇妙な渦が巻き起こったわ。

小舟を翻弄し、海賊たちの視界を白い霧で覆い尽くす。

彼らは戦わずして、海賊たちに『天の守護』を見せつけたのね。

霧の中から、おじさんの野太い声が響き渡る。


『俺は宋の燕青だ! この船に乗っているのは、お前たちの国の宝、そして尊き師範だ! 命が惜しくなければ、その薄汚い手を引け!』

力と技、そして天の加護。

これこそが、私が書類に認めた『安全』の正体よ」

霧が晴れたとき、海賊たちはその圧倒的な気圧に圧され、道を空けるように左右に分かれた。

その先に、高麗の堅牢な門が見えてくる。


お嬢の独り言

「……さあ、おじさん。

海賊たちを黙らせたその足で、堂々と壁欄渡の門を叩いてやりなさい。

げん家の三兄妹がここで泥を掴んで戦っているように、あんたは波を裂いて進む。


私の筆は、今この瞬間のあんたの勇姿を、一文字も漏らさず歴史に刻んでいるわよ。


高麗の連中に、燕青の、そして華翊商会の名前をその魂に焼き付けてやるのよ!」


私は臨安の筆房で、遠く海を越えて届く「勝ち鬨」の気配を感じ、震える手で新しい紙を広げました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ