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「……まさか、石碣村の、あの『活閻羅』の血を引く者が、土にまみれて生きていたなんて」
農地の管理と開墾を一手に引き受けてくれる、信頼できる差配役を探していた私の前に、公孫勝様が連れてきたのは、泥の匂いと、どこか懐かしい「水の気」を纏った男でした。
泥に潜む「活閻羅」の再臨
お嬢の独り言
「……阮小七様。
かつて梁山泊の水軍を率い、時の権力者を恐れさせたあの英傑の末裔。
官職を捨て、再び漁師に戻ったと聞き及んでいたけれど、その子孫たちが今、こうして私の目の前に立っている。
彼らが選んだのは、華やかな都ではなく、人里離れた湿地や荒地を切り拓き、泥の中から糧を得る逞しい生き方。
『水を知る者は、土の深さを知る』。
湿地を干拓し、肥沃な農地へと変えるその技術こそ、今、最も必要な力だったのよ」
私は、阮家の子孫が差し出した、緻密に描かれた水利と開墾の図面を広げました。
そこには、単なる耕作の知識だけでなく、外敵を防ぐための堀や、隠し通路のような水路が、まるで梁山泊の要塞を思わせる巧妙さで配置されていました。
お嬢の独り言
「燕青おじさんが海を渡り、阮家の血がこの大地を耕す。
三十六星の絆が、かつての『湖の城』から、今度は『大地の城』へと形を変えて蘇ろうとしているわ。
皆が安心して土を耕せるように、阮家の人々がその周りに張り巡らせる水の守り。
趙長官には『水害対策の公共事業』として通せば、これほど強力な防衛拠点はないわね」
陽ちゃんは、阮家の男たちが持つ独特の荒々しさと優しさに「なんだか、おじさんに似た匂いがしますね!」とはしゃぎ、美林様も、自然の猛威を恵みに変える彼らの知恵に、深く敬意を表しておいででした。
お嬢の独り言
「……よし。阮小七様の末裔たちに、私たちの事業を任せましょう。
彼らが泥の中から生み出すのは、ただの米や麦じゃない。
百年後を支える、揺るぎない生命の砦よ。
代筆屋として、私はこの『開墾の盟約書』を、決して消えない墨で書き上げるわ。
水と土、そして星々の誇りが混ざり合い、新しい歴史がここから芽吹き始めるのを感じるわね」
私は、阮家への敬意を込めた正式な委嘱状を認め始めました。
書房の空気は、今や潮風と土の匂いが混ざり合い、かつての梁山泊が持っていた「自由と義」の熱気を取り戻したかのようでした。




