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公孫勝様が又語り始める。
「朱……。やがてこの地の、いいえ、この国の運命を塗り替える存在になるというのね」
今はまだ歴史の闇に紛れた、貧しき、けれど野草のように逞しい一族の響きを持っていました。
泥土に眠る天の種
お嬢の独り言
「その泥濘の中で、必死に土を耕し、命を繋いでいる家系がある。
朱……。その御方の先祖たちが、今、この南宋の片隅で、静かに時を待っているというの?
羅真人様の予言が示す『三十六星』の加護。
それは、今をときめく貴族や大商人だけを指すのではないわ。
時代が根底から覆り、すべてが灰に帰したとき、その灰の中から新しい天を築き上げる者たち。
おじさん。あんたが高麗の門を叩き、私がここで『華翊商会』の礎を固めているのは。
もしかしたら、いつかその一族が立ち上がるときの、目に見えない『糧』を用意するためなのかもしれないわね」
私は、愛蘭さんに手伝ってもらい、各地の家系や、生活に困窮しながらも高潔な志を失わない民の記録を、より詳細にまとめ始めました。
お嬢の独り言
「……朱の一族。
今はまだ、名もなき農民として土にまみれているかもしれないけれど。
彼らが生き抜き、やがて巨大なうねりとなって新しい王朝を打ち立てるその日まで。
私たちの商会が、彼らの『生』を支える一助になれば。
代筆屋として、私はこの国の『未来の主』たちの名も、
誰にも悟られぬよう、この家系録の奥底に墨で刻んでおくわ」
花陽ちゃんは、未来に生まれる英雄の話に「おねえ様、その方たちはどんな槍を使うんでしょうね」と無邪気に想像を膨らませ、美林様は、滅びと再生が繰り返される大地の宿命に、静かに首を垂れておいででした。
お嬢の独り言
「……おじさん。
燕青の娘として、私はこの『百年先への投資』を引き受けるわ。
私たちが植えた『義』の種は、次の魂に引き継がれ、いつか大樹となってこの国を包み込むはず。




