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公孫勝こうそんしょう様……。あの御方の導きであれば、無碍むげに断るわけにはいかないわね」


一清道人の名を持つ公孫勝様が、この屋敷に一人の僧侶を連れてこられました。

その御方の名は、無準師範ぶじゅん しはん。穏やかな眼差しの奥に、深い悟りと、海を越えて真理を求めようとする揺るぎない志を秘めた高僧でした。


渡海とかいころもと、公の許し


お嬢の独り言

「……高麗を経て、さらに東の日ノひのもとへ。

仏法を広めるための旅だというけれど、この切迫した情勢の中で僧侶を船に乗せるのは、単なる慈悲だけでは済まされないわ。

柴翊さいよく様や岳飛様が守ろうとしているこの航路に、公孫勝様がわざわざこの御方を導いてきた。そこには、文字には書けない深い意味があるはずよ」


私は、愛蘭アイランさんに手伝ってもらい、急ぎ「特別乗船許可」の申請書を書き始めました。

これまでの青磁や高麗人参といった「物の交易」に加え、僧侶という「人の交流」が加わる。これは商会の品格をさらに高める一方で、当局への説明がより複雑になることを意味していました。


お嬢の独り言

「……趙財務長官。

あの御方は実利を重んじるけれど、同時に『徳』や『名声』にも敏感だわ。


華翊かよく商会が、宋の誇る高僧の渡海を支えた』という実績。

これをどう伝えれば、長官が首を縦に振り、かつ、余計な詮索をせずに許可を出してくれるか……。

私の筆が、一番の試練を迎えているわね」


私は、無準師範に用意した茶を差し出しながら、その静かな佇まいを観察しました。

おじさんが戻り、活気に満ちたこの屋敷の中で、師範の周りだけは清浄な空気が流れています。


「……師範。この航路は、まだ開いたばかりの荒い道です。

ですが、おじさんの守る船と、私が整えるこの書類があれば、必ずや貴方様を壁欄渡へくらんとへ、そしてその先の東の海へと導いてみせましょう。


それが、公孫勝様から託された私たちの『務め』ですから」

ようちゃんは、師範の持ち物が驚くほど少ないことに驚きつつも、旅の無事を祈るように新しい守り袋を用意しています。美林びりん様も、異国の宗教者が持つ深い智慧に触れようと、静かに対話を重ねておいででした。


お嬢の独り言

「……おじさん。

船に乗せるのは、青磁や薬材だけじゃないみたい。

人の志や、目に見えない祈りまで運ぶことになったわよ。

趙長官への説得は私が引き受けるわ。

あんたは、この尊い御方を、高麗の荒波から守り抜く準備を進めておいて」


私は、愛蘭さんの助言を受けながら、趙長官の自尊心をくすぐりつつ、この渡海がいかに南宋の威信を高めるかを説く、渾身の添え状を書き上げました。

墨の香りが、師範の纏うお香の香りと混ざり合い、書房はかつてない荘厳な雰囲気に包まれていきました。

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